執事長 2019-05-03 19:58:05 |
通報 |
>ヴィンス
それなら私も約束を守れなかった。言い付けを守らず部屋を出てしまった…お互い様だな(悲しげに伏せられた目蓋、頬に落ちた陰影に妙に心が騒いだ。そのような顔をさせたかったわけでも、言葉を言わせたかったわけでもない。触れた掌に力を込め小さく囁く。これ以上の謝罪に終止符を打つべく、わざと軽い口調で己の仕出かしを懺悔し、クスリと零した吐息で空気を震わせた。太腿に添えられた手は冷たいのに、そこから流れてくる力は暖かく突き刺すような痛みは和らいだ。知らずと乱れていた呼吸も落ち着く。何度見ても驚かされる奇跡の力。彼が自分の為に力を使ってくれるのが嬉しく、然し他の者に力を悪用されないかと尽きることのない心配も湧き上がる。「有難う、ヴィンス。痛みが和らいだ。…だが、弱っている時に力はあまり使わないでくれ。君の方が倒れてしまわないかとハラハラしてしまう。私は痛みに強いんだ」無骨な手を相手の頬に添え、慰撫するように指の腹で撫ぜる。窶れ生気のない顔色に眉を曇らせる。食事、というワードから何となく察する事は出来る。何せ初めて此処で目覚めた時に大いなる衝撃と共に食事が意味するものを学んだのだから。ゴクリ、と喉仏が動く。柄にもなく緊張しているのか。「…なあ、ヴィンス。私は常々思っていたんだ…。私が君の為に出来ることはなんだろう、と。浅はかで傲慢な考えかもしれない…。然し、私が……」不意に途切れる言葉。躊躇しているのだ。落ち着きなく視線はあたりを彷徨う。覚悟を決めるように瞼を一度閉じ、次に眼を開いた時、真っ直ぐに彼を射抜いた。「私が君の食事だとしても、食事を摂ることは面倒だろうか?」ずるい聴き方をしてしまった。上半身を傾け、自ら距離を縮めると頬同士を重ね合わせる。どうか受け入れて欲しい、そんな想いを秘めて返答を待ち)
トピック検索 |