執事長 2019-05-03 19:58:05 |
通報 |
>キルステン様
(涙を溜めたとき、いつも彼は、言ってくれた。女の涙は、ここぞというまで取っておきなさいと。今が、そうでなければ、自分は涙を流す機会など無いような、そんな気がしたけれど、ほんの少しの膨れっ面をみせるだけに留めて、言葉にするのは諦めた。それでも゛意地悪゛と言いたげな瞳は向けたまま。ほんの一瞬の隙であり、油断が、結果を生んだ。瞳に写る彼の姿は、混乱しているという言葉が、おそらくピッタリ当てはまるだろう。強引に、手を離されてしまえば、それを拒否と受け取り、強く目を瞑り、悔しげに身を引こうとした瞬間。逃さないとでもいうように、回ってきた腕と、ほんの一瞬離れかけたようにも思えた唇が、改めて再び重なりあう。離れてしまわないよう、何度も啄む。激しく、冷たく、それでいて酷く甘い口付けに、思考が蕩けていく。空いた手を相手の胸元に添えて、拒む意思のないまま受け入れ続けて、どのくらいの時間が経ったのだろう。漸く離れ、吐息が混じり合うその距離で、額を合わせる彼を、蕩けた瞳で見上げる。辛そうな様子を見るのが辛い。だけれど、それ以上に゛美味い゛と感じてくれたことが、とても嬉しかった。もう、声に出して想いを伝えることは出来ない。ちょっぴり切なくて、溜めた涙が、頬を伝って彼の手を濡らす。゛気にしないで゛その意味を込めて緩く、頭を振る。頬に添えられた彼の手に、自分の手を重ねて、真っ直ぐに見詰めながら、゛好き゛゛ありがとう゛と唇が動き、最期の笑顔は、彼に教えてもらった極上のもので。もっと一緒にいたかった。もっと側で笑いたかった。でも、彼を満たすことが出来るのなら、それ以上の幸福はない。彼の手に重ねていた手を離し、彼の首に腕を回すように、身を乗り出しながら、再び、此方から口付けをしようとして)
トピック検索 |