ヤンデレ。 2019-04-16 16:33:51 |
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(くらりと眩暈がした。恐らく彼にとっては何気ない所作の一つなのだろう。しかし己の瞳には、首筋の文字を伝う指先がひどく艶めかしく映った。これほど情欲を煽られたのは久し振りのことで、表には出さぬものの心の奥に困惑が広がる。適当に身体を重ねる関係の女性は居るし、事足りている。会ったばかりの素性も知らないような相手に劣情を抱くなんて、まさか。渦巻く思考を遮るように、悟られぬように、彼から目を逸らし、ひっそりと吐息を零す。……時経たずしてマスターからカクテルグラスを差し出されれば助け船を出されたような心地で、口許に笑みを浮かべてそれを受け取り。低く落ち着いた声で投げ掛けられる問いに、ゆっくりと視線を合わせては「──見くびるなよ。アンタが何者だろうと関係ない。今夜は隣で飲むって決めたんだ。たとえ何があったとしても、アンタの傍を離れるつもりはない。そんで、アンタを逃すつもりもないからよろしく」と豪気な口振りで言い放ち。危ない橋を渡る人種ならバイト先の接客で慣れている…それくらいの心構えだった。よもや彼の正体が吸血鬼であろうとは露ほども思わぬまま呑気な様子で手元のグラスを軽く掲げ、一口含み喉を潤せば「…てか、名前。俺はアキラっていうんだけど、お兄さんはなんて呼べば良いの?」ふと思い出したようにそう尋ねて。)
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