蟲 2019-03-12 00:10:57 |
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( 雨が降っていた。不意にやってきては、すぐに去ってゆく夏の雨が。明るい空から降りしきるのがどうも不気味だと息を吐いて、ぬかるんだ腐葉土を踏みしめる。相棒のカンテラも、今はただの手荷物だった。──この森の探索が日課になってもう数週間が経つ。今日ばかりは引き返すべきだろうかと少しも思わないわけではないが、多少の悪天候や気味の悪さを理由に帰宅を選ぶほど、己は臆病な性質ではなかった。気を取り直すように顔を上げて、もう一度大きく息を吐く。空はやはり明るい。木々の隙間を縫って、西から指す光が帯のように差し込んでいた。厳かな空気がこの森全体を包んでいるようにさえ思える。己の冷たい身体とともに。──それは、意地半ばで歩きだしてから少しのこと。目の前に現れた大きな茂みが突如視界を遮ったのだ。“ここから先へは行かない方が賢明だ”という警告のようにも、“人に知られてはならないものがある”という誘惑のようにも感じられた。何にせよここで引き返すには、己のプライドが高すぎる。──意を決して掻き分けた茂みの先。鎮座した球体に──幾許、呼吸を忘れた。“それ”は人の頭部より小さく、握り拳より大きい何か。光沢は雨滴のせいだろうか?今まで目にした黒の中で最も黒く映ったが、蛋白石のように輝いても見える。鶏卵のような円みを描いているが、それとは比べ物にならない異彩を放っていた。これが、蟲卵。否、己の探し物が──降りしきる雨にうたれながら、誰かの訪れを待っていた。 )
(/こんばんは。再建を心より楽しみにしておりました。蟲卵の世界観が大好きです。
現時点で相性等に問題がなさそうであれば、蛍のKEEPをお願いしてもよろしいでしょうか。)
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