蟲卵＿大正時代、アングラ、グロテスク、指名式、３L＿

>砂乱

砂、みだれ…。貴方、砂乱というの…。(にょきりと、黒卵とは対象的な生白い腕が伸びたかと思えば、次にはもう大きな瞳が此方を見据えていて。ひゅ、と息を呑む己を置き去りに、そのまま孵化は進み気が付けば見知らぬ男児が目の前には立っており。蟲卵は虫の卵では無かったのか、虫とは人の形をした奇形の事であったのか。女学生の噂を更に又聞きしただけの己では、世に出回る情報と錯誤した話しか記憶に無く、隠す事の出来ない動揺は蒼白になった顔面にありありと現れて。そのまま震える喉で紡いだか細い声は、初めて聞いたかのように其の名前を呼ぶだろう。愛玩動物の様に、蟲卵に名を付けるという話は知っていた。だが然し、謂わば盗人とも言える己が名付け親となってもよいものか＿＿その逡巡から遂には名前を付けることなく愛でてきた。若しかすると本来の拾い主である女学生が名前を付けていたかもしれぬと、せめてもの償いに彼女が親であった名残を残そうと、そんな無駄な足掻きがあったことも否めない。嗚呼、だが己のそんな浅慮も少しは意味があったのだろう。この子は、確かに名付けられていたのだから。それが少しばかり寂しいのは余りに傲慢だろうか。と、そんな思考の波に漂っている暇はないらしい。耳に届いたのは可愛らしい腹の虫の音と、続く催促の声。随分と大人びた口調だというのに中身は見目とそう変わらないらしい、と分かったのはその赤面からで。思わず目尻が下がったのは己でも驚くべき事だが、眼前の男児をどうやら可愛らしいと思ったらしい。己の顔をぺたりと触り他人事の様に自身の感情分析をしつつ、表情と同じく思いの外柔らかく出た声が「あ、あの。貴方が何を好むのか解らなかったから色々と用意してみたのだけれど。付いて、来てくれる？」なんて誘おうか。食肉は事前に聞いていたがどんな肉をお気に召すか迄は知り得なかったのだ。優柔不断も手伝って、結局鶏肉に始まり豚肉や蛙、蛇と思い付く限りを捌いて庭で冷水に付けてある。立ち上がり視線を右往左往と床に這わせ逡巡した後、おずおずと差し出したのは右手。それは、手を繋ごうかと暗に尋ねているだろう。)


(/先ずはお相手下さり有難う御座います。此方こそ主様の素敵なロルと可愛らしい砂乱に釣り合えるよう頑張りますのでどうぞ宜しくお願い致します…！)