蟲 2019-03-12 00:10:57 |
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>東堂
【砂乱】(蟲卵の中は一日が永く、捨てられた石の様に退屈だった。真っ暗で、ただそれだけ。蜘蛛の巣が瞼の上を重く張り付けているのではと疑う程に憂鬱な日々を繰り返していただけ。重苦しく、押さえつけられた様な圧迫感も、これで終い。日々の繰り返しの様に手の平を蟲卵へ押し付ける。普段であればうんともすんとも、何一つ物言わない卵が。今日は違った__パキ、ピシ、乾いたような音が響く。驚いて、きょとんとする。ほんの少しだけ亀裂の入ったそこを、月の光を盗んで光を中へ送るそこを、唖然としてまじまじと見つめる。現実と夢の境にいるように、俄かに信じられないと今一度ツンと人差し指の先で亀裂を突けば、今度は今よりも大きく日々が入った。余りにも不意のことだったから、どきりと心臓が跳ねて痛いほど。両目をかっと見開けば瞬きさえも忘れて今度は何度も繰り返し蟲卵を叩き、その隙間から忙しなく腕を伸ばし頭を覗かせ、漸く顔を。眼を鈴のように大きく張ると、其処にいる存在を射抜くように見つめ。なりふり構っていられない大きな喜びに蟲卵を踏み潰すようにバリバリと割ってその姿を全身披露し「母様、母様、――待たせてすまんね。」吹きこぼれる喜びを抑えきれずに浮かべる笑顔は正に無邪気、にっこりとした破顔は八重歯が覗いたあどけない少年らしいその笑みで。自由を手にした嬉しさに興奮を隠すことは出来ず、蟲卵から足を一歩踏み出してその場で足の感覚を楽しむように数度足踏みを繰り返す。ぺた、ぺた、裸足の湿った音さえもが愛しい。心躍る思いのままに改めて向き直れば「母様、俺は砂乱。母様の砂乱だ」何とも得意げなその面構えで、つんと上を向く鼻を高々に胸を張って自己紹介を。そんな澄ました自己紹介もぐう、と間抜けた腹の音が邪魔をする「―――母様、俺は腹が減ったぞ。何か食べ物を貰えないだろうか」思春期真っ只中に腹の音が響くのは羞恥のそれ、かあと顔を赤く染めつつも本能のままの飢えを訴える様に自らの腹を撫でつつ申し出て)
(/お返事が遅れてしまったこと申し訳ございません。また、随分と昔の前トピから気にかけて頂けたことがとても嬉しいです。東堂様が蟲卵を拾ってくださったことで砂乱が孵ることが出来ます…!、素敵な文章に釣り合えるよう頑張りますのでどうぞ宜しくお願い致します。)
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