窓から降り注ぐ月明かりを一人広い部屋で眺めている男の元に、慌ただしく誰かが入ってきた。急いできたのか呼吸は荒く、整えるだけで精一杯といった来客を、男は振り向きもせず窓ガラスから見える来客に向けて淡々と冷たく言い放つ。
「騒々しいな。ノックもなしに入るほど緊迫した状況でなければ即刻切り刻むところだぞ」
「も、申し訳ありませんっ! 早急に侯爵様にお伝えしなければならない用件がございまして!」
「……ほう?」
「モーゼンバッハ男爵が、人間どもに殺されました」
「どういう事だ!?」
部下らしい男の報告に、驚愕の瞳で振り返る。
「下等生物の人間に我々を害なす方法など無いはずだろう」
「……それが」
跪いて報告してきた内容に、男は頭を抱えよろよろと後ろへと下がり壁を背にする。驚愕と動揺、そして何よりも己のしてしまった、ごくつまらない行動に激しく悔やみと怒りの感情が渦巻いた。
「どう、なされますか?」
促され、男はしばらく考え込んだ後、配下の男に命令するのだった。
「《鬼姫》を人間共のところから奪え。生死は問わん。人間をつけあがらせるな。誰が1番上なのか思い知らしめるのだ」
「イエス、マイロード」
宵闇の住人による《鬼姫》奪還が始まる。
果たして人間は宵闇の住人から《鬼姫》を守れるのか。
レス禁