匿名さん 2019-02-10 22:59:03 |
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( 「 おや……鶯丸じゃあありませんか 」──二階に私室がある己以外の刀剣三振りのうち二振りと話をして、最後の襖を叩こうとしたその時。背後から飛んできたその台詞に、顔だけで振り返り声の主を確かめた。──宗三左文字。数少ない打刀の一人で、己よりも長くこの本丸で生活している刀剣である。機嫌こそ芳しくなさそうだが、驚きはしていない様子だ。すでに今後のことについて調査を受けたか、調査を受けた者とどこかで行き会い話を聞いたのだろう。「 貴方、人の身を得てから彼に会ったのは初めてでしょう? 再会のきっかけが“こんなこと”だなんて……喜ぶべきなのか悲しむべきなのかわかりませんね 」──小夜左文字が折れてからというもの、宗三は彼の内番着を肌身離さず抱えながら過ごしている。もちろん今も大事そうに両腕にくるみつつ、いけしゃあしゃあとそんなことを言ってのけた。己は鶯丸との関係を、この本丸の誰にも話したことがない。つまりは生前の鶯丸が、己の名前を口にしていたのだろうと簡単に推測できた。宗三は平野のように己に気を遣う刀剣ではない。媚びへつらえなどとは思わないが、彼の言葉が不快であるのに変わりはなかった。「 ……こいつの話をしに来たのか? 」「 いいえ? 刀解してください、と伝えに来たんです 」そう言って宗三は、下の方をうろつかせてばかりでちっとも合わせようとしなかった視線をやっと上げた。己も体ごと振り返る。うつろな目をしていた。この本丸では誰もがそうだ。
宗三の答えは想定通りだった。これまで話を聞いてまわった二振りも、同じことを望んだからだ。ではなぜ、己は鶯丸の話題を打ち切ろうとしたのだろう。己と宗三の間に与太話は必要ない。確かにそうだが、果たして理由はそれだけなのだろうか。「 ……大包平 」静かな声で、宗三が呟いた。「 ……何だ 」気怠そうに返事をする。「 ……何でもありません。今後の聞き込みも、つつがないことを祈っていますよ 」「 ほう。俺の働きが心許ないと? 」「 とんでもない。僕は貴方に感謝しているんですよ。どういう意味だかわからないほど、馬.鹿じゃないでしょう。一々目くじらを立てないでいただけますか 」そう言って宗三は、抱えた着物の裾を小さく握った。誰が審神者を手に掛けたのか、理解して放たれた言葉だった。本丸の指揮を執っていることに対する感謝などでは決してない。己が成した、後ろ暗いものを指して言っているのだ。「 ……フン 」用は済んだとばかりに目の前の部屋へ入っていった宗三に倣い、己も黙って踵を返す。すっかり放っていた鶯丸へと視線をやると、「 二階で生活しているのはあいつで最後だ 」そう告げて、真っ直ぐ続く廊下の先を見据えた。少し行くと己の私室があって、さらに奥へと進めば“アレ”の息絶えた場所に着く。「 もうここに用はないだろう 」静かに呟くと、暗に“引き返せ”という意味を込め、顎で反対方向を示した。 )
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