匿名さん 2019-02-10 22:59:03 |
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( 「 おや 」 思わずと言ったふうに歌仙の口からこぼれ落ちた言葉はたった一言。あの大包平にしては珍しい、嫌味がこれでもかと言うほど散りばめられたその言葉に歌仙の眉が寄るのを真横で感じる。この男は外面は悪くは無いが如何せん沸点が低すぎるのだ、大きく肺に溜まったぐずぐずと胸焼けする程に重たい空気を吐き出し片肘で歌仙の脇腹を一突きしてやれば、落ち着きを取り戻した歌仙は取ってつけたような咳払いをひとつ。「 さすが審神者が居ない間を一人で纏めていただけはあるね。それじゃあ言葉に甘えてそうさせてもらおうか。」 大包平が一言紡ぐ度に凍る空気の中、話は終わりとばかりに踵を返す大包平の背中に向かって、やや毒を混じえた言葉を投げつけると歌仙はこちらに気遣わしげな視線を向ける。言わずとも歌仙の言いたいことなど容易に理解出来る話だが、仮に刀を抜く事があれば俺が相手取るより速さも腕力も大包平を上回る前田や小夜が相手になる方が効率がいいだろう。「 ははぁ、相手方はどうやら俺を指名のようだ。では俺には大包平に着いてもらおうか。」 それでも構わないだろう?そう意味を込めて歌仙へと視線を向ければ頭が痛むのだろう、手のひらを額に当て 「 はあ─…まぁ…鶯丸がいいならそれでいいよ 」 と驚くほど投げやりな言葉が返り。「 くれぐれも粗相はないようにね。──では、大包平殿からも許しを得たことだ、僕には篭手切、亀甲には物吉、お小夜には数珠丸に、そして鶴丸には──… 」 一人一人名を上げ視線を向け鶴丸と平野、一期一振にそれぞれ視線をやり、そこまで口に出すと歌仙は少しだけ言い淀む。先程の大包平を顧みるにこの本丸には 前田藤四郎 は居ないのだろう。誰とは知らないが、だからこそ襖の方から動揺している様子が感じ取れた。仮に己が望まぬ結果になろうとも、親しい…それこそ兄弟の手で果てたいと願ってしまうのは、きっと人の子が持つ心なんだろう。迷いを見せる歌仙に向かって口を開く。「 組みたい者と組ませたらいいんじゃないか。 」 ──少なくともあまり経験の無いように見える彼らに遅れをとるようには思えない。そう喉まで出かかった言葉を飲み込み簡潔に一言だけ掛けると歌仙は頷き、「 そうだね。…─では鶴丸には一期一振、前田には平野に着いてもらおう。けれどあくまで一応だから好きなように組み分けてもらっても構わないよ。」 歌仙の言葉に一同頷く。話は終わったのだろう、腰を上げようとすると遠慮がちに裾を引かれた。指先から腕へ視線流せばその先の前田が少しばかり迷う素振りを見せながら小さく声に出す。 「 大包平さん、ご気分が優れないのでしょう。手のひらがとても熱を持っていました。 」 遠目に見ても頭が痛むようでしきりに眉を寄せる仕草が見えた。「 まあ細かいことは気にするな。どうにでもなるさ 」 室内での礼儀として帽子を外したままのまろい頭をぽんとひと撫でして客間を出て。
後ろ手に客間の襖を閉め視線を少し先に向けると壁に凭れかかる人物が目に入り。支えがないと長く立つことすら苦痛なのか、以前演練の場で見かけた何処かの大包平の姿とは顔色も悪く、見れば見るほど不調なのだろうと察する。大包平とは兄弟のようなものだといつかの審神者に告げたことがあったが──…根深く住み着くその心のせいか、手を伸ばし額にかかる髪を払ってやりたいとさえ思ってしまう己を律し、調子が悪そうな事にも一切触れず 「 随分と待たせてしまったようだ。この場合は──…、ご指名ありがとう、とでも言うんだったか 」 大包平に視線は向けないように外へ注意を払いながらも表情も声色もいつも通り、しかしながら言葉だけは冗談を紡ぎ上げ。「 さて、誰から行けばいいか。…お前もよく知る通り、俺には縁のある刀なんぞどこかの一人以外にはいないんでな。 」 独り言のように呟くとようやく大包平の方へと視線を向けて )
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