鯨木かさね 2018-12-31 13:01:56 |
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(傷をなぞる手に力が込められ鈍い痛みにまた表情を引きつらせ抗議の声をあげようとするも、その後は言葉の通り丁寧で的確な処置が始まったため大人しく体から力を抜く。人外に此処まで身を任せることがあっただろうか。それだけでもどうかしていると言うのに、自分がした陳腐な質問に対する相手の答えを聞いて、ほとほと今の自分がおかしいことに気付かされる。悲しむ人間はいない。喜ぶ人間はいる。今を楽しく生きようとしている。どれも多少のニュアンスの違いはあれど同じ…、自分と似た考え方だ。実際は人間の数だけ全く同じ考え方なんて存在しないから、似て非なるものでしかないが。と心の中で彼女との酷似部分を否定して「人の皮を被った鯨木さんらしい、寂しい答えだね。」と皮肉を。しかしそもそも彼女は寂しいなどと思うのだろうか。楽しんでいる今を失う恐怖も、誰にも悲しまれず看取られず記憶にも残らない虚無感もないのではないか。そこまで考えて彼女がコートを持って出ていった方向に視線だけやる。「まさか“今”も楽しんでるってこと?…意味わからない。」痛がってる姿を見て楽しみたいだけならこんな丁寧な治療はしないはず、やはり彼女の考えは読みづらい。誰も居ない部屋で一人ごちたとき急激な眠気が襲ってきて、ブランケットの暖かさが余計に睡魔を誘発して瞼が重たくなる。彼女のいない間にとんずらする気力は眠気の中に沈んでいきゆっくり夢の中へいざなわれた。)
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