鯨木かさね 2018-12-31 13:01:56 |
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(掴んでいた手は、電流を流す前に彼の体から離れてしまった。身軽な彼は宙を舞い素早い動きで距離を取っている、居場所をなくした手は空中で掴んでいた形のままピクリとも動かず停止しておりその体制を崩さぬまま話を続けた。「…彼は私の商品であり、その他の人にもその権利はある…と。貴方の仰る事は生憎間違いではありませんが」ゆっくりと進む彼を目線で追いながら、入口、逃げ出される可能性のある唯一の道にも警戒心を払いながらも淡々と会話を続ける「それは人間ならば─の話でしょう。彼は元々人間では御座いません。それは貴方もご存知かと思いますが、一般的な人権も戸籍も存在しておりませんし、それに既に購入された彼は1人の所有者のものと、表面上ですがそうなっております。」じりじりと距離を詰めるお互いの間には、互いの意思を探るべく笑顔と無表情の対になる2つの仮面を被り静かに戦闘合図の知らせる鐘を鳴らしていた。だが、彼の口から出た仔猫の話にピタリとその歩みを止める「───プライベートと仕事はまた別の話です。私の個人的な意見ですが、仕事に私情を挟むのは大きな失態を及ぼすリスクを上げることに繋がるかと。その仔猫と今求める商品とでは私の私情を差し引けばどちらを優先するべきか自ずと分かってきます。」やや早口に、止めていた足を徐々に前へと進めつつ伸ばしたままにしていたその右手からワイヤー状の罪歌を放出した。太陽の光を時折反射させるそれは、地を這いながら彼の足を絡め取ろうとその身をしなやかに軋ませていた。)
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