りつ 2018-10-23 08:51:40 |
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鳴り響いた、アラーム。それに気付いて夢現から、重い瞼を押し上げると、いつも見慣れた天井が見える。
「……夢、かあ」
胸を撫で下ろして身体を起こすと、頬を伝うものが布団へと落ちる。
何を泣くことがあるのか――不思議に思い、慌てて手でゴシゴシと擦った。
――会いたい、なんて……今更。2年も会っていないだけだ。たった、2年。
そう言い聞かせて、今まではやって来れたのに。
ベッドから降りれば、カーテンへと近付く。カーテンを開ければ、射し込む光の眩しさに、目を細める。
友人との会話が、耳から離れない。
「華和ー、最近どうよ?」
「どこのサラリーマンの台詞?……ううん、連絡ないよ」
ツッコミを入れつつ、俯いて答える。それに対しての友人の顔は曇る。
幼なじみの恋人は高校を出ると都会へ就職し、上京すると独り暮らしを始めた。最初は連絡を取るのが頻繁だったのに、だんだんと連絡の回数が減り、一年に数回会う程度。マンネリというのだろうか。そんな日々を過ごしていた。
「あんたさ、別れたほうがいいんじゃないの?私、あんたの悲しそうな顔を見たくないよ?無理して笑ってるし」
見透かされている。いや、解りやすいのかもしれない。でも、嬉しかったのは本当で。曖昧に笑うことで誤魔化した。
「寂しい」と言えたらいいのに。それを言うことで迷惑になる、とか。私でない誰かを好きになっているのではないか、とか。
そんな前にも進めない自分が、また、吹っ切ることができない自分が情けなくて嫌いだと夜にはいつも考えてしまう。
朝は大丈夫なのに、大好きな喫茶店巡りをすれば心は晴れるというのに、夜は物思いに耽る。そのせいか眠れない時もあった。気持ちを切り換えたいのに、心はそんな単純なものではなく、更に自分の弱さに泣きたくなってしまうのだ。
そんなある日、ふと目についたのはひっそりとした建物。隠れ家のように思いつつ、足を踏み込む。歩けば歩くほどに、懐かしいものを彷彿させた。この香り。この雰囲気。この外見。一回しか行ったことのない、喫茶店。ああ、そうか。探していたのは――此処だ。
どれほど立ち尽くしていただろう。耳に心地よい声が掛かり、振り返れば優しい顔をした口髭を生やした男性。それだけで、この人と会ったことがある、と確信した。
出されたホットコーヒーは、やはり懐かしいものだった。この香りも漂う湯気も、ティーカップやソーサーも。親が頼んでいたコーヒーを見ては、”大人の階段の飲み物”と思っていた。
懐かしさに目を細めつつ、コーヒーを一口啜れば苦さに苦笑を浮かべて、ミルクと砂糖を入れた。まだまだ大人にはなれていない。
藤波さんはただ笑みを浮かべた。何も話さない。でも、それが有り難かった。
そんな時間を過ごしていた時にふと、藤波さんが口を開く。
「良かったら、喫茶店で働かない?」
唐突で、呆気にとられたのは言うまでもない。
しかし、それはまるで背中を押されたような気がして。
答えを見つける、ヒントを探す機会に感じた。
私は即答はしなかった。でも、家に帰ると決意が固まっている自分がいた。
携帯を手に取り、恋人の電話番号を見つめた後、私は喫茶店へ電話をかけるために親指を動かした。
ここから、私の答え探しが始まった――。
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