執事長 2018-10-04 22:19:25 |
通報 |
>ルシアン
…なってくれないのか?(己の肩へ、尻尾へ、触れる面積が大きくなるほどに伝わってくる体温が体内へ浸透するようで。本当に、貴方が無事で良かった―安堵を噛み締めていれば、耳へ届いた不安げな声。どう言葉を尽くせばいいんだろう、思いを巡らせた結果、貴方の問いへ問いを返す形になってしまって。「俺は、…俺の片翼はお前しかいないと、心からそう思ってる」いつもの柔らかな笑みを浮かべるでもなく、真剣な表情。それに反して、ゆらぁりと大きく揺れようとする尻尾は、今回は貴方の腕に収まっていて。横に座る貴方の重みをただじっと受け止める。伝えられた言葉は、怪物の心に張り巡らされた琴線を強く揺さぶるのに十分で、思わず息が詰まる。2人が同一になる――その言葉から、血生臭い捕食を連想してしまうのは、きっと己が曲がりなりにも生粋の怪物なのだからだろう。けれど、貴方がそんなことを望む筈がない、ついさっきだって怪物に襲われかけて心底怖い想いをしたのだから。そう決め付けてしまえば、無意識の内に留めていた呼吸を再開する。なだれ込む様な空気が、キュゥ、と小さく喉を鳴らした。「……ああ」貴方の願いを叶えてあげるだなんて、そんなつもりはない。貴方が願いを唱える前に、既に体は動いていて。体温を、匂いを、存在を、貴方の全てを。自分自身に刻み込むように、強く強く抱き締める。数秒、十数秒、どれだけの時間が経過しただろうか。ゆっくりと身体を離せば、懐から何かを取り出し、貴方の首の後ろへ手を回せば何やらゴソゴソと作業を。そして手を引っ込めれば、口許にだけ微かに笑みを浮かべて「次会えたら、渡そうと思ってた。裁縫は初めてだから、少し不細工かもしれないが…、受け取って欲しい」それは、翡翠色の布で拵えられた蝶ネクタイ。貴方が初めて己の絵を描いてくれた日、欲しいと言っていた事をずっと心に留めていた。決して完璧な出来とは言えないが、魔法に頼らず手作業で作った分だけ思いは強く込められていて)
トピック検索 |