お坊ちゃん 2018-09-27 22:54:34 |
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……世間には何か事情があって陽奈子が"仕方なく"跡を継いだと思う輩も多いが、実際はそうじゃない。陽奈子"しか"跡を継げなかったんだよ。__「次代の相続権は本家筋の女人にのみ与える」。ただの遺言でも、埃臭い御家にとっては何より重い呪いの言葉だ。
( 些か熱が入りやすいのが難点だが恐らく元来頭の回転は悪くないのだろう、謎かけじみた此方の返答をきちんと理解したことが分かる相手からの死者を悼む言葉に少しだけ困ったように眉尻を下げるとそっと視線を落として。そんな言葉は葬儀を執り行ったあの日から散々向けられてきたというのに、有象無象から向けられた"月彦"への言葉とは違う、弔われたのが"陽奈子"だと認識した相手に告げられる言葉はじぐりと胸を重たくさせて。半ば無意識に胸の辺りを軽く撫でてから気持ちを切り替える様に一呼吸、それから改めて相手の疑問に応える真実を続けて。古臭い風習に縛られた御家では先代の言葉は何よりも重く、従わないというのは御家に対する反逆行為に他ならずそんな呪いの言葉を当然良くは思っていないのか僅かに低くなった声には憎しみが滲んでいて。また逆を返せば遺言に縛られた姉以外は何一つ縛りがないということ、それこそ"こんな時勢だからこそ"御家の弱みに付け込もうとする輩は少なくなく、弱みを晒したまま身内で争うことこそ破滅を呼ぶ愚行に他ならず。本来ならば跡目争いで有利に働くはずの性が逆に足枷となりこんな滑稽な現状を招いていると思えば表情に浮かぶのは自嘲の笑みで、何処か発した言葉に遠慮の色を覗かせる相手に視線を戻せば気にしていないとばかりに肩を軽く竦め )
呪いを掛けられた陽奈子は当主の椅子に縛られたが、つまりは呪いから逃れた者には関与する権利すら与えられていないんだよ。例え双子の弟だろうが、本家筋だろうが分家筋だろうが、遺言に当たらない時点で相続権は全員横並び。……身内争いをしている間に他所から潰されるくらいなら、現状維持を選ぶ方が堅実だろう。例えそれが時間稼ぎに過ぎずとも、今の御家にとってはそれが最適解だったのさ。
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