お坊ちゃん 2018-09-27 22:54:34 |
通報 |
あら、存外可愛らしいお声をお持ちなのね。まあそれなりに長い自分語りをすることになるだろうから、そのくらい気楽に聞いてくれた方がいいと思うわ。俺も、どちらかと言えば取り繕わない物言いの方が気楽だからな。
( 少々相手を弄び過ぎたらしい、混乱した様子でソファへ逆戻りしてしまった彼女におやおやとばかりに口元に手を添えながらその姿を見下ろすと、そうなってしまうのも道理かと困ったように小さく笑みを浮かべて。きっと頭の中を整理しているのだろう相手の沈黙の間に乱した着物の襟やくしゃくしゃの髪を手早く元のように整え直すと、暫くして漸く口を開いた相手の恐らく本来の声だろう言葉に少しだけ驚きを見せ。相手が取り繕うことを辞めたのであれば此方も気楽に言葉を交わして構わないだろうと、声や仕草は変わらないままにまるで他の誰かの台詞を繋げたかのようにふっと素の言葉へと戻り。どんと些か荒い動きで相手の目前のテーブルに腰を下ろすと何から話そうか、少しだけ考えるように視線を彷徨わせながら首を傾げた後不意に相手へと視線を戻せば無表情とも違う、ただ張り付けていた表情を取り払った素の表情を浮かべながら静かに言葉を漏らし始め。どこまでも謎かけの様に核心をあえて言葉にしないのは先程までの相手を揶揄う意志とは異なる、核心たる姉の死を今でも納得できていないが為の子供じみた下らないエゴによるもので )
__つい昨年、当家で葬儀を執り行ったことは世間にも幾らか知れているだろう。まあ取り立てて大きく騒がれるまではなかったけれど。…弔われた故人の名は"天都橋 月彦"、天都橋 陽奈子の双子の弟だが体が弱く、遺体は病によって頭髪が全て抜け落ちていたらしい。男女の双子とはいえ顔立ちは恐ろしいほど似ていてね、"天都橋 陽奈子"が棺に花を手向けた時には死んだ"天都橋 月彦"の霊が傍らに立っているような錯覚さえ周囲は感じたそうだ。
トピック検索 |