名無しさん 2018-08-16 14:59:05 |
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(身に覚えでもあるのか、如何にも当て付けた返しであったはずなのに、小さく笑みを零す姿が映り。何時の世も血を血で洗う戦乱は絶えず、老若男女問わず積み上げられた死傷者の山は幾つも目にしてきたが、目の前の人間も教会という立場上それらに立ち会ったこともあるのだろう。恐らく、先の覚束ない手付きであっても懸命に向き合おうとしたのは、その出来事があったからか。物思いにふけるその様を眺めていれば、不意に懐かしさを感じる微笑みに目を疑い、表には出さぬものの戸惑いを覚えて。これ以上の関わりは互いにとって不利益になりかねず、見て見ぬふりをしてきた現実は、永久に流れる時と共に忘れ封じ込めてしまいたい。吸血鬼がこの聖域に踏み入れ聖職者が介抱したと外に漏れれば、我らを付け狙う輩からの仕打ちも教会としての株を下げる結果を招き、無用ないざこざに巻き込む恐れがある。一先ず、下手な物に触る前に魔の者特有の血を消し、無味で粗悪な血あれど多少の喉の渇きくらいは収まるかと舐め拭き取っていると、此方の身を案じては止めさせようと手を取られ。しかし、相手の視線は己の瞳を捉えた途端、動揺しながら途切れた言葉に加え、打って変わって距離を取ろうとする変わりように一つの合点がいき。感覚が鈍っているせいであまり実感は湧かないものの、心待ちにしていた日が沈んだ時間が訪れては本来の瞳へと戻り、流石に此方の正体に感づいたらしい。当然の反応に一瞬顔を曇らせるも、直ぐに声色を落とし不敵な笑みを向け、人の子を遠ざける格好の口実を淡々と口にし。)
――今更気付いたところで、もう遅い。……選ばせてやろう。泣き喚き無様な醜態を曝すか、大人しく俺に喰われるか。
(亀裂を生み多少の争いの形跡を残せば向こうの地位を保持させ、騒ぎを立てれば他の教会の者や追手共らの応援となり、抵抗しなければ眠らせればいい。聖母との誓いに従う形になるのは癪だが、傷を癒す目的を果たした今長居をするのは無用であり、知らぬこととはいえ一時の時間を共有したものを喰らうのは後味が悪い。本調子とまではいかずとも日が暮れた今であれば、黒ずくめを撒くことは造作もなく、片腕もあれば十分足りお釣りが見込める。畏怖が去る前に方を付けるため、まるで逃げ惑う“獲物”を狙うように本性をむき出し、悠然と立ち上がれば鋭く尖った牙をちらつかせ、その場の空気が凍りつく殺気立てた紅い瞳で見据えて。)
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