万事屋代理、 2018-07-28 00:18:46 |
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《 川口 夕 》
〉坂田銀時
万事屋銀ちゃん、ねぇ…
(いつもならば、胡散臭そうな名前だな、と放り投げてしまうであろう薄っぺらな広告を1枚握り締めて立ち尽くしていた。今は、この広告だけが命綱、と言っても過言ではない。ここ最近の不幸返済は凄まじいものだった。否、元々が幸せだった訳では無いが。長年連れ添った(養った)彼氏には浮気され、捨てられた。終いには、職場まるごと潰れ、通帳の貯金残額は1桁、家賃も払えず一週間前、遂に家を追い出された。漫画喫茶で細々と命を繋いでいたがお金もいよいよ1万円を切った時、いよいよやばいと思った。が、そんな短期間で簡単に職が見つかる筈が無い。三十路近平々凡々な女を回収してくれるような慈善活動に近い採用をしてくれるキャバクラは無かった。キャバクラ以外の仕事、といえばあるにはあるのだが、不景気の今、未経験のペーペーの三十路女を引き取ってくれる職場も見つからなかった。せめて、貯金があれば本腰を入れて、職探しが出来たのだが、家を追い出された3桁はとうに超えていたであろう貯金が消えてしまった今はもうどうしようもなかった。野垂れ死にを覚悟していた時、たまたま拾ったのが金さえ積めばなんでもやってくれるという『万事屋銀ちゃん』とでかでか書かれた広告だった。蜘蛛の糸状態で縋りついたのだが、自分の方向音痴が予想以上に凄まじいもので。1時間ほどふらふらと小さく書かれた雑な地図を辿りに歩いているのだが辿り着かない。諦めて、野垂れ死にでもしようかと葛藤していた時、不意に視界に入ったのは『万事屋銀ちゃん』の看板だった。下のスナックらしき店の前で掃き掃除をしている黒い着物の女性にここが万事屋銀ちゃんか、と訊ねると少し同情するような視線とともに嗄れた声でそうだよ、あんたも物好きだねぇ、と言われた。矢張り、この女性の対応や名前を見るからに怪しい。しかし、死ぬよりはマシだろう。ありがとうございます、と短くお礼を伝えれば階段を上り、息ひとつ吐いて、インターホンを押した。銀ちゃん、ということはここの主の名前が銀太とか銀八とかなのだろうか。不意に、誰かの名前が引っかかったような気がしたがそんな思考は平々凡々な眼鏡青年の顔で消え去った。彼が何か言う前に無意識に口を開いていた。多分、違う。そうじゃない)あの、…ここで私を働かせてください
《 土方十四郎 》
〉一色さん
…あ?近藤さんが居ねぇだぁ?…墓参りだろ
(午後には帰ってくるさ、と付け足し再び視線を落とした。書類を捲る手を再び動かし始め、隊長は、と訊ねてきた部下に背を向けたまま答える。今日は、いつもの日常と少し流れが違う。いつもならば、近藤さんは個人的警備(という名のストーキング)をしているだろうし、総悟はその辺でサボっているだろう。自分は、書類に向かっているか、パトロールをしているか。テロやらなんやらが起きない限りその流れは変わらないし、日常だろう。でも、今日は違う。今日は、彼女の命日だ。なぜ行かないんだ、と部下も最初のうちは訝しげな視線を送っていたが3年も経てば墓参りに行かないことすら通常になっていた。行っていない訳では無い。ただ、昼間に行けるほど自分の行いは良くないのだ。部下が出ていき、再び静寂を取り戻した部屋には自分の溜息だけが響く。もう今は亡き彼女の話はどうも息が詰まる。好き、や愛おしいではない。後悔と罪悪感に苛まれているのだ。落ち着かせるように、落ち着きを手繰り寄せるように煙草に火を付け、深く深く息を吸っては吐いていた。不意に、あの真っ白な髪を持つ女医が忽然と姿を現さなくなったのも約3年前か、と気づいた。別に、深い関係があった訳では無い。ただ、世間話をするような、そんな関係。男女とはいえど色恋沙汰にはならなかった。かといって、仕事仲間でもない、そんな不思議な関係。互いに漠然と異性として意識はしていたのかもしれない。でも、必ず境界線を守っていた。厳密に言えば、踏み入れないように。その関係の生温い温度がちょうど良かったのだ。誰も傷付けず、惑わせない。逃げだったかもしれないし、甘えだったかもしれない。それでも、心地良かった。彼女が今どうしているのか知る術も無いし、探す義理も無い。彼女とはあくまでも『知人』なのだから。薄ら過去に浸ってしまっている気持ちを現実へと引き摺りあげるように、手近にあった灰皿を手繰り寄せ、すっかり短くなった煙草の火を揉み消し、書類を手に取り直そうとした時、何時にも増して忙しげな表情の部下が襖を勢いよく開けた。「うるっせえぞ、山崎ィ!」と声を荒らげつつ、襖の方へ視線を向ければ、少し困ったような表情の彼女が立っていた。思わず呆然としそうになるが、どうにか愛想笑いらしきものを浮かべ、社交辞令程度の挨拶をこぼすことで限界だった)……お久し振り、ですね。お元気でしたか
( / こちらも返信遅れてしまい、申し訳ございません。素敵な絡み文ありがとうございます。頻度の件、承知致しました。此方も何日か空けてしまうこともある故にその都度報告させて頂きます。
思った以上に纏まらず長々となってしまって申し訳ございません。普段はこの分量よりも少なめですのでお許しを…絡みづらいなどありましたら、お申し付けください)
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