赤の女王 2018-03-10 15:26:43 |
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>三月兎
…… よく描くのは水彩の、風景画だろうか。( 悪い話で無いとは言え唐突な切り出しだったにも拘わらず、笑わずに称賛を受け止めてくれた彼にほんのり感謝を覚える。ゆるり、緩んだ頬を唾液を飲み込むのと共に引き締めては動き出した背中を追いかけるように自身も足を踏み出して。来た道とは逆の道順を辿っていることに気が付いたのは芳醇な赤が映える庭園を両目が捉えたからであり、混乱が取り除かれた今だからこそ改めて見える風景に視線を彷徨わせていれば、心地良い沈黙を柔らかく割くように投げ掛けられた質問に思わず目を瞬かせた。そしてすぐさま思案する。何となくキャンパスに色を乗せたいと思ったとき自分が取る筆はどんなものだったかと。普段はあまり意図しない部分だからこそ直ぐには出てこないそれを少しばかり漁り、そうして掴めた答えを告げる声はどこか自信なさげにブレており。彼自身は拘りの無い幅広い描き方で創作するということを本人の口から聞けば、真っ先に零れたのは感嘆の声で。殆どが水彩ばかりの自身にとってみれば複数の技法を扱えるというのは純粋に称賛に価すべきこと。なれば " ミスターは凄いな " と心からの言葉を前置きしたうえで「 俺も稀に人を描きたくなったら油彩を手に取るけれど、そこまで多様な手法は扱えない。 」 と付け足しては軽く頷きを。そうして和やかな心地で庭園を抜ければ少しばかり変わった景色に興味が惹かれる。ここは何処を切り取っても絵になる風景ばかりだ、なんて独り言ちた心情が消えぬ間に彼へ視線をやると、「 ミスターは人物も風景も、静物も動物も選り好みせず瞬く間に描いてしまいそうだ 」 ふと、その雰囲気から感じ取ったことをぽつりと。 )
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