花を吐く患者 2017-12-28 21:33:08 ID:ad134b26a |
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よく通った声が母屋に響いた。その声はベットで植物図鑑に目を通していた銀の耳にも届いた。誰だろうか?いつも聞く郵便配達や新聞配達の人の声ではない。聴きなれない、初めて聞く人の声だ。ベッドから下り、羽織を着ると病室の窓を開け身を乗り出すように下を見る。そこに立つ白シャツの初老の男が目に入った。やはり知らない人だ。首を傾げているうちに客人を迎える兄、徹が姿見えた。
圭一の声に書斎で書類に目を通していた兄、徹は顔を上げ時計を見る。約束の時間10分前。さすが、徹が信用した人なだけはある。生真面目な彼らしいと思いながら、徹は友人であり医者の圭一を迎えに書斎を出た。片田舎には珍しい洋風の屋敷にこの兄弟は住んでいる。二人の他に年老いてきた母、おばあさま、お手伝いさんが二人暮らしている。周りは昔ながらのかやぶき屋根の家ばかりなので、この大きな屋敷のような家はよく目立つので迷うことはないだろう。玄関で草履に履き替え門の方へ向かう。春風、桜の花びらが舞う中で、徹が待ち望んでいた友人が立たずでいた。
「お久しぶりです榊さん。グアム島帰還以来でしたかね?積もる話もあるでしょう、中へどうぞ」
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