花を吐く患者 2017-12-28 21:33:08 ID:ad134b26a |
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桜花の花弁が私の目の前で舞いを踊り、少しばかり濡れた地面に、はらりとその身を落とした。
私の乗っていた黒塗りの汽車は、蒸気煙をあげながら私の故郷へと帰っていく。その様子をどこか寂しげに見守りながら、線路伝いに歩みを進める。
麗らかな春。物心ついたときから、この季節が一番好きだった。しかし、こんな雄大な「春」を最後に目にしたのは、果たしていつであったか。辺鄙な田舎とは心得てこの地に降りたが、ここはあまりにも自然と人とが近い。花や雑草、樹木。名が分からないものばかりだが、植物学者の親友ならきっと雄弁に、これらの植物の豆知識を披露してくれたことであろう。それ位に数々の自然が当然のごとく住民の家と溶け込んでいる。医療器具を片っ端から詰め込んできた鞄は軽いとはいえない手荷物だったが、早く戦友の元へ向かいたいという感情が勝り、歩幅も広くなる。革靴ではまずかったかと後悔しながらも、右手に例の手紙を持ちながら「華月」の表札を探し回った。
だいぶ時間はかかったがようやく、彼とその弟が住んでいるらしき旧家を発見することができた。華月と書かれた表札と私が向き合う。珍しい苗字だ。間違う要素もない。深呼吸をする。
「ごめんください」
診療所の訪問で患者の家を訪ねるときと同じようにして、大声で住人を呼ぶ。花を吐くとあった手紙の文面。初めはその病名さえ、見たことも聞いたこともなかった。
しかし、こうしてこの地までやって来たからにはこう思う。軍医の頃からの願い。患者とその家族のことを救いたい、と。私は気持ちを切り替え、ネクタイを正した。
(/テストロル完成です。お相手として承認されましたらニックネームを榊 圭一に変えて本格的にロル返信させていただく次第です。ご検討の程宜しくお願い致します...!!)
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