赤傘の名無し 2017-12-22 01:56:54 |
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満月の夜は人をおかしくする…なんて言うけれど
それなら最初からおかしい僕は月明かりに照らされたらどうなってしまうんだろう。
窓から差し込む青白い月光が君と僕を照らす。
真っ白なシーツに投げ出された君の肢体はやけに艶やかで
思わず小さく息を飲んだ。
君はすやすやと穏やかな寝息をたてていたが、可愛いだとか綺麗だとかそんな感情よりも先にある考えが麻薬のように脳内に染みる。
ああ…なんて、
なんて君は…美味しそう。
身を乗り出せばギシリ、と寝台が悲鳴をあげた。
まるで僕が彼女に近付くのを拒むように。
気付かないふりをして僕は君に覆い被さる。
こんなことをしたら君は怒るだろうか。
痛い、と泣くだろうか。
…でもね、君が悪いんだよ。
君があまりにも綺麗だから
綺麗すぎて傷付けたくなるんだ。
僕は醜いから
君の隣に並ぶには
君をこちら側に堕とすしかないよね?
少し身動きした君の首筋に僕はそっと牙を突き立てた。
プツリ…という音をたて破れたのは君の白い肌だったか、それとも僕たちの関係だったか。
赤く膨らむ血の珠を見てしまえばそんなもの、どうでもよくなった。
喉を潤すその液体はとびっきり甘美で
思った通りとても美味しかった。
その時だった。
突然、君の体が小刻みに揺れたかと思うと僕の大好きなあの小鳥の囀りのような笑い声が耳の横から聞こえてきた。
びっくりして顔を上げると、思い違いなんかではなく君は笑っていた。
嬉しそうに、とても艶やかに。
「――やっと…、やっと噛んでくれたのね?」
感極まったように呟く君の姿のなんと美しいことか。
その一言が全てを物語る。
きっと、彼女はずっと待ってたのだ。
僕の元へ堕ちることを。
僕が君を堕とすことを。
思わず見惚れていると彼女の視線と絡まる。
それは…そう、飢えた獣のような瞳。
「ああ、とても…とてもお腹がすいたわ。…だから、私にもちょうだい?」
そう言って彼女の生まれたばかりの小さな牙は僕の首筋に甘い甘い痛みをおくる。
その時、僕は思った。
月明かりに照らされおかしくなってしまったのは僕だけではなく、君もだったのかと。
…いや、満月なんて関係ないのかもしれない。
だって、僕らは最初からおかしかったのだから。
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