物草 惣兵衛 2017-11-14 04:24:08 ID:c196a580b |
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「私?」
質問を返された少女は、一度傾げた首を向き直して確かめるように言った。きょとんとした表情も愛らしい。
一瞬ドキリとしてしまったが、近くに親がいるかもしれないと思い、ジョセフは慌てて意識して平静を保った。彼は確かに子供好きであったが、それは決して邪な感情によったものではなく、子供をある種の欲望の対象としては見ていないし、当然危害を加える気もなかった。しかし、それでも自分のような者が我が子に話しかけるだけで、あからさまに嫌悪感を示す親はざらなのである。
無邪気な子供の前と油断をして、楽しい気分になった時に、突然現れた親に水を差される切なさはなかなか慣れない。だからこそ、ジョセフはそこでかえって警戒を強めて、やや固い口調で続けた。
「そうだよ、お嬢ちゃん。お父さんはどうしたの?」
その問いかけに、少女は事もなげに即答した。
「お父さんなんて知らないよ。会ったこともない」
そして、路地に踏み込み、ずんずん歩いて、二人の老人のすぐ近くまで来た。本当にすぐ近く、手を伸ばせば触れるどころか、抱きしめられそうな距離である。予想外の行動に、髭の老人は口をつぐんで興味深そうに少女を見遣り、ジョセフの方はやっぱりドギマギしてしまった。それでも、何か言おうと口を開きかけたところで、少女の声にそれを阻まれる。
「ねぇ」
少女はじっと、ジョセフの瞳を見つめる。
「な、なんだよ…」
思わず、目を泳がせてしまいながらも答える。少女の方は毅然とした調子で続けた。
「私、人を探しているの。黒い猫なんだけれどね、黄色い虎猫でも良いわ。見ていないかしら?」
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