物草 惣兵衛 2017-11-14 04:24:08 ID:c196a580b |
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聞き慣れない甲高い幼声に、ホームレス仲間の老人二人は目を丸くして通りの方へ同時に顔を向けた。
陽は暮れ馴染み、そろそろネオンに火が灯ろうとしている街の雑踏に紛れて、その声の主は街路から注ぐ光を背にしてこの狭く小汚い路地を覗き込むようにして立っていた。
オレンジがかった赤毛の長い髪はウェーブがかかっていて揺れている。ベージュのダッフルコートにレースのついたスカート。白いタイツにティンバーランドのワークブーツが妙に不釣り合いで可愛らしい。
年齢は6、7歳くらいか。どう見ても女の子。
その小さな影が首を傾げて、ただこの場所が暖かいという理由だけでたむろしている根なし草の老人二人に向かって問いかけている。
「ほほっ、こいつぁ珍しいお客さんが来たもんだ」
髭を酒で濡らした老人が赤くなった鼻を上に向けて笑った。
何をしている?などと訊いてくるのは、彼らにとってはもっぱらビルの警備員か役所の人間くらいだ。
一般人どころか警察官ですら見向きもされないこの老いぼれた宿無しに不意に語り掛けてきた小さな少女を前に、驚きと物珍しさが相まって、白髭の老人は饒舌になる。
「なにをしているかって?はははっ、こりゃ傑作だ。教えてやんなよ、ジョセフ」
白髭にとろんとした目を向けられたジョセフと呼ばれたマネキン収集の老人は、ポカンと口を開けたまま、路地の入口に立つ女の子を見ていた。
「がはははっ、見とれちまってやがらぁ。こいつぁロリコンってやつでな、可愛らしい女の子を見ると拐っていっちまうんだぜ」
そう言って下品に笑い、ポンポンとジョセフの肩を叩く白髭のしわくちゃな手を振り払って、「そんなんじゃねえ」と呟いたあと、自らを落ち着けるように、ゆっくりと少女に向かって言葉を投げた。
「どうしたんだい?お嬢ちゃん。もう陽が暮れるよ?」
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