物草 惣兵衛 2017-11-14 04:24:08 ID:c196a580b |
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「そりゃあ、猫が化けてたんだろうよ」
やや垢にまみれた白い髭を酒で濡らしながら、浮浪仲間の老人が豪快に笑った。
季節は秋口で、段々と寒くなってきている。だからこそ、彼等が今たむろしているのは、シティの中でもあまり治安が良くない繁華街の、とあるバーの裏である。ここなら、適度に狭くて暖気が逃げにくいし、バーの換気扇から出てくる風は暖かい。
閑静な住宅街とは異なり、白い目で見られることも少なく、それどころか、たまに衣服や嗜好品を恵んでくれる人もいるのだ。髭の老人が今、口にしている酒もそうして恵まれたものである。
「ばか言え、そんなわけがあるか。酔っ払いがよ」
マネキン収集が趣味の老人は、心地好く酔って上機嫌な髭の老人に少しきつい口調で言い返した。しかし、髭の老人は意に介さない様子である。
「ばーか!じゃあ、お前の方こそ酔っ払ってたんだろうがよ。あるいはぁ、寝ぼけてたんだ!」
そう言ってまた、うへへと笑い、酒瓶に口をつけて傾ける。マネキン収集が趣味の老人は、やっぱり、こいつに話しても無駄か…、と内心で落胆した。
治安の悪い場には変態だって現れる。今まで何度、死体を見てきたことだろうか。その中には異様な状態のものもあった。それでも、あの現場は何故か、それらとも一線を画して不気味に思えたのだったのだ。
「…か…かるとっちゅうのかね。そういう趣味の者がやったのかね…」
老人は視線を落とし、誰にともなく呟いた。すると、その時、路地の入口にバーの裏を覗き込む影が立った。
「おじさんたち、こんなところで何をしているの?」
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