物草 惣兵衛 2017-11-14 04:24:08 ID:c196a580b |
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その死体が発見されたのは、この寂れた廃工場に銃声が轟いてから数日経ってのことだった。
シティの東に位置するこの工業地帯は、その役目をすっかり終えて、今ではかつての活気は見る影もなく風化の一途を辿っていた。
この広大な土地を一度はシティが企業主から買い取ったが、その際の売却額が異常なほど破格だったため議会と企業間による贈収賄疑惑が降って湧き、それが元でこの荒れ果てた工場群は未だに手付かずの状態で放置されている。
そんな場所だから、ここは行き場の失ったホームレスや不良たちの溜まり場になり、殺人や死体遺棄など物騒な事件の格好の舞台になった。
隣接するイーストタウンの住民たちの要請もあって、シティは工場地帯を鉄条網付きの高いフェンスでぐるりと囲い防犯カメラも増設したが、以前に比べて幾らかましになった程度で、それでもこの廃れきって世間に見放された地帯に侵入する者は後を絶たなかった。
死体を一番に発見した浮浪者の老人も、この場所に魅せられたうちの一人だった。
彼は何日もかけてタウンを彷徨き、ときにはシティの中心街まで出向いて行ってコレクションを収集していた。
お気に入りの人形やマネキンをゴミ置き場で見つけるとそれらを引き摺って、彼だけの秘密のオアシスであるこの廃工場に連れて帰っていた。
この日の朝、やっと見つけた一体の壊れたマネキンの上半身を抱えて、破れたフェンスの隙間を掻い潜り、痛む背中を丸めて、老人は数日ぶりにようやく自分だけの邸宅に辿り着いた。
上機嫌でお気に入りのコレクションたちである廃マネキンの山を見て異変に気付く。
「なんだぁ?こりゃ」
無造作に置かれたマネキンたちの傍らに、何かがある。それは置いてあるように見えた。
血にまみれた衣服。男性ものの白いカッターシャツに、高級そうなスラックス。それはあたかも人が横たわるように人の形に置かれていて、ピカピカに光る靴までもが開かれたスラックスの裾に整然と並べられていた。
「…??」
老人は駆け寄って目を凝らす。
人が脱いだ…?いや、そうじゃない。「脱け出した」という形容のほうが当て嵌まる。
服だけが残されて、人の姿がそこにはなかったのだ。
「おい、なんだよ、こりゃあ…」
恐る恐る手を伸ばして、血で赤黒く染まったシャツを握って持ち上げようとする。すると、その手にズシッと重みを感じた。
意を決して剥ぎ取るようにシャツを捲り上げた。
ゴロンと、シャツから何かがこぼれ落ちた。
「!?」
それは一匹の黒猫だった。
死んでから何日か経過していることは、老人の目にも明らかだった。
黒い毛は使い古されたモップのようにバサバサで、血が固まってこびりついている。
頭部は原型を留めないほどにグシャグシャに破壊されていて見るもおぞましく、それまで幾つもの死体を見てきた老人でさえ腰を抜かしそうになるほどだった。
「こ、こりゃあ…何だよ…」
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