物草 惣兵衛 2017-11-14 04:24:08 ID:c196a580b |
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コートに身を包んだボーラーハットの人物の発した怒声が闇を切り裂く。
真っ直ぐに差し向けられた銃口の筒先が、浮かんでいるかのように月の光に照らされ、引き金に指先の力が加えられていく様子までもがはっきりと男の目に映る。
「お、オレを殺ったところでどうなる?
お前は辿り着けない。ビッグマミィのところまではな…」
開き直ったかのように、男は薄ら笑いさえ浮かべながら言い放った。
「お前も餌食になるのさ。
エリゼやフィリベールのように…」
その台詞の言い終わりを待たずして、撃鉄が落とされた。
渇いた銃声と同時に雷火が弾け、一瞬、埃まみれのマネキンの山に埋もれる男の最期のニヤけた顔を闇に浮かべた。
暗闇に余韻が響く。
それは耳鳴りのせいかもしれない。
コートの追跡者は銃を下ろすと、自らのざわめく胸中を落ち着かせるように山高帽をかぶり直し、大きくひとつ溜め息を吐いた。
━━これが、終わりの始まり…。
胸に去来するひとつの思いを頑なにしまい込み、ルードと呼ばれた人は踵を返して、再び幽暗とした闇の中に身を溶け込ませていった。
響く靴音は決然としていて、何かに駆られるかの如く力強く廃工場に鳴り渡っていたが、遠ざかるその跫音は廃マネキンの上に横たわる男の耳に届くことはなかった。
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