雪月桜 2017-11-12 01:50:39 |
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プロローグ
穏やかな日差しが、ベランダのガラス戸をすり抜けリビングを暖める。
優しく暖かな日溜まりは、私の隣に座る彼女の微笑みとよく似ていた。
「もう、泣かないで。きっと彼は、貴方の魅力がわからない人だったのよ」
そっと彼女が私の右手に触れ、慰めの言葉を囁く。
頬を伝い落ちた涙が、私の右手とそれに触れている彼女の指先を濡らした。
体温と同じ温度の涙は、暖かいはずなのに私の心には届かない。
「大丈夫よ、私が側にいるわ。貴方の傷が癒えるまで、ずっと側にいるから…。だから、寂しくないわ」
呪詛のような甘い言葉。
甘くて苦い彼女の言葉は、昔読んだ童話の果実を思わせる。
「貴方を受け入れたら、私は楽になれるのかしら」
思うより先に言葉が出た。
それほどまでに、私の心は枯れていた。
「…そうね、楽になるかはわからないけれど、貴方の側にいることは出来るわよ」
彼女の言葉が引き金となり、私の心が答えを出す。
彼女の細く柔らかな体に私の手が触れる。
小さく震えた彼女の反応を無視し、そっと抱きつく。
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