赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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>三月兎
……ありがとう。
( きっと今、すぐそこに静寂の神が立っている。ささやかな魔法に守られているような空間だった。双方が口を閉ざせば静けさはしんしんと迫る。緑と花の中で風に揺れる銀色の髪の男の無言は、その静けさより強かった。一言お礼を口にして、向かいの椅子に腰を下ろす。「三月兎。きみ、この書き付けに覚えはない?」言いながら、胸ポケットにしまっておいた一枚の羊皮紙を取り出しそっとテーブルに置いた。『P126 古くから、愛の犠牲が死を乗り越える守護になることがあると信じられ、また、現象は確認されている。死に限らず、愛による献身はその対象をあらゆるものから守護し、跳ね返すことができる』そう記されたメモに視線を落として、思わず小さく息を吐く。「客室に置いてあった本に挟まっていてね。愛というのはまた、曖昧な話だろう。それに比べて、死というのは具体的な現象だと思わない?それを覆すために愛を頼るなんて、御伽話みたいだよね。この世界もそうだけど」幻覚の中にいてなお、学ぶという姿勢を持ち続け手に取った本から得られるものが何もないなんてことは避けたかった。だが、この書き付けに、この世界を歩いていることに何か意味があるのなら。他人なんていう信頼できない最たるものに、期待することで何かが得られるのなら。Self-sacrifice、声を出さずにそう唇を動かして、男の返事をじっと待った。自分から自分を失うことで、他者に何かを与えようとする行為。自分を失ったら最後、何も与えてられるものなんてない。―――それが“死”だろう。そう思考して、目の前の男へ視線を戻した。 )
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