赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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>チェシャ猫
わたしは昨日ここに来たばかりよ。まだ何があるのかよく分かってないけど……でもそうね、アリスって呼ばれるのには慣れたかしら。(言いながら、チェシャ猫に従って庭園へと歩いて行く。真紅の薔薇たちは今日も日差しを浴びてしたたるように輝いていた。猫が進むのは複雑な道筋だ。帰り道を覚えなきゃと目印を見つけようにも、辺りは一面の薔薇、薔薇、薔薇。気が付けばどこから入って来たのかまったく分からなくなってしまった。おまけに風に乗って、くすくすと笑うような声がかすかに聞こえてくる。ここに来たときにも聞こえた、花びらを震わせるような笑い声だ。世界に置いてきぼりにされる感覚に、ぎゅっと鞄を握りしめる。ずんずんと進んで行く背中にもしや何か企んでいるのではないかと思い始めたが、猫が指し示したのはなんてことのない木陰だった。それでも空に広がる緑の葉はざわざわと揺れ、地面にまだら模様の木漏れ日をちらつかせている。ほっと胸を撫で下すと同時に、魅力的なその場所で休憩をすることにした。猫と共に木の根に腰かけると、涼しい風が吹いてくる。「当ててみせましょうか。あなたっていつもこうやってお仕事をさぼってるんでしょ」座ったまま背筋を伸ばして見上げれば、猫は未だ笑顔を浮かべている。そんな彼に、声を潜めて問いかける。「あと変なことを聞くけど……ここの薔薇って、喋ったりするの?」)
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