赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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>侯爵夫人
仕方が無い…君の言うように、私はもう此処から元の場所へ帰る事が出来ないと言うのなら、少なくとも路頭に迷う心配が無いだけ運が良かったのだと__そう思う事にしよう。
(す、と伸びた扇子の先を追い掛ければ、その先に待つのは堂々たる風格をもって聳え立つ赤の城。これからこの城が生活の拠点となるのだと、彼はそう言った。この世に生を受けてから45年間、紆余曲折有りはしたが今ではそれなりに裕福な暮らしを手に入れた。それでも到底縁があるとは思いもしなかった城での暮らしをたった今この手にしようとしているのだから、人生何が起こるか分からないものである。下向きな思考は宛ら沼の如く、一度でも足を取られてしまえば何処までも深く深く沈んでゆくだろう。それが分かっているからこそ、ふつりと気持ちを己に降りかかる不運から逸らす事にした。どの道理解も享受も到底叶いそうにない突然の出来事、折角こうして世話を焼いてくれる相手がいるのなら今は大人しく任せておくべき時であると45年の経験がそう言っているのだ。ゆったりと歩み出した足は、着いて行くと言う意思を伝えるように彼の傍で立ち止まる。軈て見詰めたのは彼の目に宿る二つの鮮やかさ。視線を確りと合わせたまま、握手を求めて利き手である左手を差し出し)
ではお言葉に甘えさせて頂こうか…宜しく頼むよ、侯爵夫人。
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