赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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>侯爵夫人
(死して尚薔薇の花は美しい。見窄らしく萎れてゆくのは時間だが、花として本当の意味で死を迎えるにはまだ僅かの猶予がある。掌の上にころりと転がった薔薇の花、その鮮やかな色彩をじっと見詰める瞳に宿るのは同じ赤でも異なる赤__熟れ過ぎた柘榴のように、やや黒味のかかる深い赤だった。は、と零れる吐息は溜息の代わりかそれとも渇いた笑いの代わりか。いずれにせよ、中庭を包む穏やかな陽気の中でぽつりと浮いた仄暗さを纏い、ただ時間の経過を待つだけの男に投げ掛けられたのは高笑いと共に紡がれる何とも縁起の悪い台詞。言われるまでもなく自然と顔は其方へ向けられる事となり、憂いを帯びた暗い眼差しが彼を捉える。軈てゆらりと噴水の淵から立ち上がり、掌の中で刻一刻と息絶えてゆく薔薇をぐしゃりと握り潰せば、その無慈悲さに聊か不似合いな優しい声が答え)
そうか、それは残念だ。悪趣味な白昼夢でも見ているのかと期待していたが、君の言う事が出鱈目でないのならどうもそれは外れたらしい。
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