赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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(いくら路傍の虫ほど軽んじられる人間とはいえ、そんな人間だからこそ頭を撫でられるという類稀な体験にされるがままぐらりぐらりと首を揺らしてはまやかしにさえ舐められる己が身の上の恨めしさにしけた舌打ちを一つ。ささやかな負け犬の遠吠えさえたった一本の腕を籠で塞がれてしまえば惨めな虚勢に成り下がり、無駄にもがいて自己嫌悪の蟻地獄に嵌るまいともう何も言わない代わりに抱いた籠から焼き菓子をくわえて齧り「陛下、俺が、王様か。……ええ趣味しとるわ。お前等も大概にせられえよ、一族もろとも打ち首にしてやるけえ」世に謳われる立身出世など夢に見たこともないけれど、この世界が医者の言う深層心理なるものならば自分にもそんな願望があったのかと語られる経緯に驚きではなく皮肉の声を上げ。空想の玉座など猿山の大将より価値の無さげな地位に思いを馳せつつ、曰く己を閉じ込めようと蠢く花々に別段愉快でもない冗句をぼそりと零し「ーー城と答えりゃ阿呆の国の天皇陛下に祀り上げられるんじゃろう。アンタん所と言やあ見世物小屋か。夢ん中でも、極楽浄土にゃ行けんのか」ぱさつく菓子に舌の根まで乾かされ、根暗に一層拍車のかかるボソボソと辛気臭い調子で前を行く男の問いかけに文句を垂れては「……どうせ蛇でもご馳走じゃけ、ええよ、アンタん所に着いて行っちゃる。的屋でも靴屋でも構わん」眠りたくもないのに日没と共に死んだように息を殺し、ようやっと得た微睡みを日の出と共に打ち破られる早寝早起きの生活は飽き飽きだと後者を選び取り。後はもう葬列のように押し黙って靡く二色の髪を追っていたが、木の根を踏み越えようと俯いてはじめて自分が忌々しい演者時代の着物を着ていることに気づくと「…哀れよなぁ、アンタも顔はええのに。俺の夢に出てくるけぇ、そねぇにとち狂った格好させられて」あの極彩の幾十年が悪夢にまで深々と影響を及ぼしているのか、そのせいで彼も女装まがいの奇抜な格好に身を包んでいるのかと口元を憐れみとも嘲笑ともつかない形に歪めて)
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