赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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>侯爵夫人
( 疎いのなんだと言われてもここに来たばかりの私には知る由もない。分かっているのはこの世界は現実世界ではないことと、私は迷い子であること、迷い子は皆アリスと呼ばれること、この男は夜目が利かないこと、侯爵夫人という名であるということ。この世界は少し特殊で、直感が常時警報を鳴らしていること。私にはこの悪寒がなにかもわからないし、そもそもこの世界の地形だって知りえないのだ。そんな私に何を求めているのかと不服そうな面持ちでねめつけていれば、ぐい、と寄せられた顔に瞠目する。反射的に距離を取ろうとして、やめた。こちらもまじまじと見つめた理由は明快。あまり意識して見ていなかったから気づかなかったが、この男、存外整った顔立ちをしている。良いなと無心で眺めていると、す、と納得したように離れていった男はぶつぶつと何かを呟いているようで、少しばかり今の状況と矛盾したそれに首を傾げた。先ず住処など持ち合わせていないのだが、私は。何か勘違いをしているのではないかと思うも、どうやら酒が飲めるのならば泊めてくれるらしいので別段気にすることではないと納得する。一つ心配なのは己は些か下戸のきらいがあるということだけだ。そう考えていたのも束の間、今更ながら若しかしてここに来たばかりなのかと問われれば、こちらを垣間見た視線と交わる。どうやら本当に勘違いされていたようだ。「気づいていなかったのかね?私は先程の薔薇園以外にこの世界の地形は知らない新参者だ。城には住んでいない。残念だったな、私を通して恩を売るつもりだったのならばやめておけ。お生憎様、この身一つの一文無しだからな、返せるものなど持ち合わせていない。」ふん、と鼻を鳴らしてついたのは可愛くもない余計な皮肉交じりの言葉。先程からのやり取りでそういった下卑た考えは見えなかったというのに相手を馬鹿にするような言葉をつらつらと並べてゆく過ぎた口にほとほと呆れた。自分が言いたかったのはつまり、親切心は身を滅ぼすから気をつけろ。ということ。何一つとして伝わる要素のないそれに、およそこの世界の調査は一人で行うことになりそうだと覚悟を決めた。 )
それで?君はその遊園地とやらに皆が知らない‘アリス‘を連れて行ってくれるのかな?
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