赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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>ライオン
(次第に漂い始めるトマトのさっぱりとした匂いは、よく煮込まれた野菜の甘みを想像させてくれる。更に、ハンバーグの上にとろりと乗せられたであろうチーズの匂いがふっと鼻腔を擽れば最早非の打ち所のないその組み合わせの秀逸さに早く言わせろと言わんばかりにぐう、と低く腹の虫が鳴いた。今日も今日とて美味そうな夕食だ、相手の声に促されるまでもなくぺろりと平らげてしまう準備は万端である。席に着き、目の前に並んだプロの食卓をじっと眺めれば「…頂きます」と言うお決まりの挨拶の後、早速メインディッシュに手をつけた。一口頬張ればコクのあるチーズと深みのあるソースの味わい、そしてじゅわりと溢れ出す肉汁――言うまでもなく美味い。睡眠と食、己の人生において非常に大きなウエイトを閉める要素の内ひとつをこうして毎日満たして貰えるのだから、こんな暮らしも悪くないとさえ思ってしまう。良いペースでこの日の夕食を食べ進めつつちらりと視線を上げて向かいに座る相手の表情を盗み見れば「…美味いココアが出てくるならな」と生意気な発言が余計ではあるが、これは誘いに対する承諾の代わり。もう少し素直に、且つ愛想良く返事が出来れば相手にもそれなりの手応えがあったのだろうが、相変わらずの無愛想ぶりも今この場に居ない彼が中々此処へ帰って来ない事と同じくらいこの空間では当たり前の物となっていた。とは言え、結局の所相手の誘いをことごとくはねつけてしまうつもりなど少しもないのだという事を、おそらくは相手もだんだん予想が出来るようになっているのではないだろうか。「考えとく…」そんな返事の後、口の中に残るこってりとした肉の味を流すように爽やかな酸味のあるミネストローネを口へ運べば「…美味い、今日も。」と遅ればせながらの感想を添え)
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