赤の女王 2017-10-15 11:00:59 |
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>チェシャ猫
(しつこい相手なら容赦無く突っ撥ねるつもりだった。ところが彼は、絶妙な引き際を知っていた。加えて、此方の精神に揺さぶりを掛けるような巧妙さをもっている。そもそも他人との接触は極力避けて通る生き方をしているのだから、こうした駆け引き染みたものにはてんで耐性が無いのだ。彼の言葉や仕草が打算によるものであった事など想像もしておらず、普段の臍曲がりは何処へやら、こんな時ばかり素直――否、素直にならざるを得ないらしい。"う、"と僅かに怯んだ様な声を発したその刹那、後頭部に回した手でガシガシと頭を掻きながら「…あ゛ぁ、クソ――分かった、着いて行きゃ良いんだろ…その代わり近場にしろよ、近場に。」と半ば投げ遣りな承諾の返事を。結局受け入れるのならもう少し気持ち良く頷けば良いものを、悪態を吐かずには居られない様で。此処まで一貫して否定的な反応ばかりが続いていたが、此処に来てそれに変化を齎したのはオルゴールについて触れた彼の一言だった。その意図がどうであれ、ささくれだった心にオルゴールと言う存在の影響は大きい。ポケットの中から取り出した箱型オルゴール、外側についた小さな螺子を巻いてからその蓋を開けると庭で聴いていたものと同じ『エリーゼのために』が流れ始めて。)
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