松野カラ松 2017-02-11 16:32:53 |
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*???*
僕の兄と弟はヤバい。
正確にはあのふたりだけはヤバい。
異常さに気がついたのは僕たちが中学生に上がった頃だった。
最初はカラ松だった。えんげきぶにはいりたてのかれはまだ自己を確立しきっておらず、無鉄砲でけんかっ早い性格は残っていた。段々体の大きくなってきた僕たちは家の風呂では六人交代になっていき、時間がかさむという理由で銭湯に切り替わった。その頃、みんな広い風呂を楽しみにしていた中でカラ松だけついてこない時があった。珍しい。瞬間湯沸かし器みたいな彼が。飽きっぽい彼が新しい物に一番飛びつきやすいのに。
僕は、一種の好奇心で様子を見に行ってしまった。止めておけば良かったかも知れない。普通に家の風呂を独り占めできるのを楽しんでいるかもしれないから。
「ふんふふん、ふんふーん」
(鼻歌……?お風呂場からだ、やっぱ普通に家風呂楽しんでたんだな。なんだ。なんかやな予感がしたけど気のせいか……あれ?母さんと父さん出かけてるんだ……買い物かな……)
「…にしても見事に切っちゃったなあ、真っ赤っかだ」
(切った?…怪我でもしたのかな……)
「彫刻刀の扱い、あまりうまくないもんなあ」
(そうだったっけ?カラ松裁縫とかもできるしそんなに不器用だった覚えは──あれ?)
彫刻刀で切ったなら手を怪我するはず……カラ松、手なんてどこも。…むしろ今日怪我をこさえて帰ってきたのは、たしか。
「…すっかり包帯にまで血を付けて…あまり心配掛けさせちゃ駄目だぜ、い、ち、ま、つ。」
(ーー!?)
風呂場から聞こえたリップ音と、薄い血の香り。なんで。カラ松が一松の使っていた包帯を洗ってる!?な、なんで?いや、きっと優しいから洗ってやって……じゃあ今のリップ音は??
「…ああ…端に血がついてる。良かった。これくらいなら切り取ってもばれないな…後は洗っておいて、残りは貰おう。…洗う前に……んっ…」
(─へ!?何この音……まさかっ…)
「…ん、…っんく。…はは。…六つ子の俺達の体で余り意味は無いが…またひとつ一緒になったな、いちまつ。」
(───あいつ、この音、包帯に水入れて…っ!!吸って……────!!!!??)
がたん。
「……ふふ、…っはは。二階に逃げたみたいだ。……あいつにはいずれバレるだろうからな。頼っても来てくれると思うし…あいつの目が誰を見つめているか分かり易い…流石は六つ子。チョロ松の芽にも俺に似たものが映るのも分かってるからな。…早く恋バナしたいなあ。」
その後、カラ松はいつも通りだった。十四松が恐ろしいと知ったのはそれから時が少し経ち高校に上がった頃だった。カラ松も銭湯に来るようになったから安心していたら、今度は十四松が早風呂をして一人で帰るようになった。
僕はこわかったんだとおもう。
でも、見に行ってしまったんだ。
(何できちゃったんだろう、でも、でもまさか十四松まであんなことになってたらって……)
「あれー?チョロ松兄さんまでどったのー!?」
明るい声。十四松はゆらゆらとバランスボールでゆれていた。
僕はその場で杞憂だったと安心した。
(なあんだ……思い違いか、走ってきて喉渇いちゃったよ…)
「いやー?ちょっと僕麦茶取ってくるね」
麦茶を取りに台所まで向かう。
でも、違和感があった。
(………?床下の戸が半開きになってる。)
思わず手を伸ばし直そうとしゃがんだ。
視界に飛びこんできたのは。
(……っ、…これ、トド松宛てのラブレター……!?他にもプレゼント…だよねこれ!?全部破られてるしな、な、なななな何これっ!?)
「チョロ松兄さん」
「ひっ……!!!!」
「ばれちゃったあ、あはは。」
「ばば、ばれちゃったって、お前っ!これもしかしてお前が!?」
「うん。」
「何で!?」
「内緒にしてねチョロ松兄さん。僕ね、トド松とつきあえることになったの!」
「…は?」
「両思いだったんだ!だからね、守ってあげることにしたんだ!」
「──っ、まっ、話が読めない」
「カラ松兄さんにも助けて貰ってるの」
「────っ!!!あいつは……!」
「俺がどうした」
「っっ!!!!!」
「んー?…かわいいブラザーの恋が結ばれて嬉しくてな、よく相談を聞いてたんだ。まさか十四松のほうが早いとは思わなかったが恋バナできる相手ができて嬉しいぜ」
「ははは、はやいって、おまえ、まだ一松の事を…!」
「?…まだも何も……もうあいつは俺の物だぞ」
「……はあっ!!??」
「紆余曲折かなりあったが……やっと俺の物になってくれた。一松に擦り寄る女を自殺に追い込んだときは一番悲しかったな……どうして…どうしてあんなことしなければならなかったんだ…」
「じさっ……!?一松のクラスの子だよなそれ!?こないだ飛び降りした…!!」
「一松のこと好きだったからな、あの子」
「それだけで!?」
「好きだったくせに……騙すつもりだったらしい。一松を騙していじめに使うつもりだったらしいんだ。俺が許すわけない………まあその話しはよしとして。チョロ松、これなーんだ」
「!や、やめてよ!!!」
「地下ドルの写真集と見せ掛けるなんて流石だぜマイブラザー、中身全部おそ松じゃないか」
「見るなよ!やめろよ!!」
「…落ち着いてくれ、何もお前を糾弾するつもりもないしする資格もない。だが…分かってやりたくてこんな話をしているんだ。」
「は…?」
「おそ松が好きだろ」
「─!」
「兄弟が好きで、」
「やめ……」
「男が好きで、」
「やめろ」
「その気持ちは募るばかり」
「やめろって!」
「はてにはストーカー紛いのことまで」
「やめてよ!!!」
「僕はなんて気持ち悪いのだろう。僕はなんて最低なんだろう。親不孝だ。兄弟思いじゃない最悪な奴だ。消えてしまいたい。」
「やだ、やだやめて…!!」
「……チョロ松。もういいんだ」
「……っ」
「もう、苦しまなくて良い。お前は何もおかしくない。お前が誰よりも世界で一番兄貴を愛している。お前が自分を許せないのなら俺が許す。お前はおそ松を純粋に大事で大好きでとてもきれいな恋をしている。」
「そんなわけ…」
「あるんだ。俺は味方だ。十四松も。いいか?自分じゃ駄目だ、誰か綺麗で優しい女の子の方が幸せにしてあげられる…そう思ってるんだろう?」
「………」
「そう思って自分の気持ちを抑えられることはできるくせに、なぜその女の子を超えようと努力しない?」
「それは…」
「男だから?兄弟だから?生ぬるいぜブラザー。誰だって好きな相手と過ごすのが一番の幸せなんだ。おそ松にとっても。女の子より好かれれば良い。そして女より尽くし、守ればいい。」
なあチョロ松。
ねえチョロ松兄さん。
「「仲間になってくれない?」」
その日から僕は、二人と恋のために生きた。
監視から盗聴、なんでもした。
そんな日の続いた高校の卒業式の日だった。
「夢があるんだ」
「ゆめ!?なんすか、なんすか!」
「またどーせ、ビッグな俺とか言うつもり?」
「いいやそれはもう…叶ったぜ」
「バカかお前」
「ふふ……。……一松は外に出るのが余り好きじゃないだろう?好きなのは美味しい手羽先と猫ちゃんなんだ。だからな。
一松のためだけに居場所を作るんだ」
「それって、つまり」
「でもそれよりも一松はブラザーが大切だ」
「!だ、だめだよ!トド松おそと出ないと暗くなっちゃうから!」
「おそ松兄さんだって同じだよ!」
「分かってるさ、無理強いなんかしない。だが……万が一何かあったときのために胸にはとどめておいてくれないか?」
「カラ松…」
「カラ松にーさん…」
「六人みーんなで、皆だけで……幸せになれるところを俺が作る準備、するからな。」
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