主おじさん 2017-01-26 20:28:46 |
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( この学園は、エリートから一般の頭脳を持つものまで、頭が悪いと言われる人材はいないものの、それでも様々な人が存在する。そんな学園は彼の父…公爵家が運営する学園だ。元々別荘に近い役割をこの建物は担っていたが、母が亡くなってからというもの、父も自分も足を運ぶことが少なくなっていった。とはいえ、ここは母が大事にしていた建物。取り壊すことは出来なかった。母が最後を迎えたのも、母の持ち物の一部が残っているのも」、最早この土地この建物だけなのだ。中庭にある大きな木に触れる。この木は例の事件のせいで一部の生命力が尽き、毎年咲くはずの花が数年に一度しか咲かなくなった。それゆえか、数年に一度しか咲かないこの花が開花している時、この木の前で好きな人に告白すれば、その恋は必ず実ると噂された。そしてもっと凄いのはそれが現実になりつつあるということだ。この木が開花して枯れるまでの短い間に告白した人は必ず恋が実っている。だが、木はそんな魔法のような不思議な木ではない。ただ生命力をほんの少し失った美しい花を咲かす木。否、もしかしたら……亡くなった母の魂がこの世に留まるために憑依しているのかもしれない。もしも、そうなのだとしたら、この木が噂と同じようなものを現実にしたとしても不思議ではない。だって母は、とても愛情深く、皆に平等で、誰でも笑顔にさせてしまう、そんなお方だったから。まあ、これも自分の憶測でしかないし、魂がこの世に留まるなどそんなことはないと思うから…恐らく違うのだろう。只々奇跡が重なった。それだけ。 父と母は似たもの同士だった。父もまた、人を笑顔にする才能を持ち合わせていた。その間に生まれた私自身も我ながら笑顔が多かった方だと思っている。あの日までは。事故が起こった。防ぎようがないと言ってしまえばそれまでだが、予期していなかった事故だった。父も私も仕事が貯まっており、別荘にいたのは療養している母だけだった。先ず耳に入ったのは別荘の一部が燃えているという報告だった。その場で呆然とする父を置いて左程遠くない別荘に走ったのを覚えている。ただ行くだけなのにその道は長く感じられた。着いた時にはもう亡くなっていたが、あまり時間は経ってなかったからか本当に一部しか被害はなかった。その一部の場所に室内庭園があり、母はそこで茶を楽しんだいたらしい。葬式が終わってから一年が経つまでは早かった。その間に父は変わってしまった。お金を乱暴に扱うようになり、酒を飲む量は明らかに増えた。それまで私が行っていた習い事と仕事にプラスして自分の仕事や新しい習い事もさせるようになった。それからはニ人で話す事もお互い」の笑顔を見る事も少なくなっていった。話したくなかったとは言わない。でも段々荒れていく父と昔の父を幾度か無意識で重ね、距離をとっていたのだ。今となっては呼び出しを受けた時、何らかの行事について話し合う時ぐらいしか話さなくなっている。そろそろ年齢的にも継承の案件とこの学校を引き継ぐかどうかを迫られる時期になってきている。学園は、学園の方は受け継ごうと思っている。でないと金遣いの荒くなった父がいつ売り捌くかわからないから。自分が準責任者ではなく、責任者になってしまえば、私の許可なく学園を崩すことは出来ないだろうから。家の継承にあたっては迷っている。一番の理由は、父と母のような悲劇を二度と繰り返したくないし見たくないから。それにここまで荒れていれば財政を立て直すのに相当な時間を要するだろう、公爵家を新しく建てた方が早いくらいには。だから迷っている。そこに関しては成人してからでもいいだろう。先ずは学園の事からだ。一通り考えた後大きくため息をつく。やるべき事がありすぎる。と思いながら。木にもたれかかり、少しくらい休んでもばちは当たらないよなと思いつつ、木の下で空を見上げる。茜色になりかけている空を追うように暗闇へと引き摺り込もうとする闇空が迫る。あの日も、こんな風景だった。この風景の中で引き留める己の秘書の言葉も聞かず、自分の事も顧みずに馬車では時間がかかるからと安全点検も疎かに馬を走らせた。今思えば愚かな行為だ。母が狙われたという事は自分も狙われていたかもしれないというのに。でも過去の自分はそれも考える事が出来ないほど慌てていたのだ。今となっては想像する事が出来ない己の姿に思わず笑ってしまいたくなる。この木が近くにあると母が戻ってどってきた気がする。たまには、ここで昼寝をしてみるのもいいかもしれないと思いつつ、瞼を静かに閉じて。 )
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