匿名さん 2017-01-13 00:17:18 |
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( 男がずいと距離を縮めると、この薄暗い月明かりの中でも相手の姿形がはっきりとみとめられた。白い肌に暗めの金髪、藍色を帯びたグレーの物憂げな瞳。そしてぞくりと背筋の凍るような、人を人とも思わない冷たい視線。首筋に冷たい感触をおぼえた直後、それがナイフだと知って息を飲む。男が一歩下がって煙草に火をつけたときにようやくナイフを突きつけられてから無意識に息を止めていたことに気がついて細く息を吐いて。彼は歪んだ微笑みを湛えて修道女たちが卒倒しそうな事を言った。それでやはり彼が自分を殺そうとしているらしい事を悟る。)
僕は今、本当の意味で神を身近に感じています。祈りよりも死の予感の方が神聖な気持ちになるなんて。これは……、この気持ちはなんと表せば良いのでしょう。
( 身の毛のよだつような彼の提案に対して口を突いて出たのは命乞いの嘆願ではなく。それは一般に“一目惚れ” や “恋” と呼ばれる感情にかなり酷似していたが、その言葉で一括りにしてしまうにはあまりにも複雑怪奇で薄暗く、人倫に悖るものだった。身体を痺れさせるような甘美な陶酔に動悸と目眩がする。無意識に右手が首から提げた十字架のペンダントに伸びて。)
貴方が僕を天国へ連れて行ってくださいよ。 __ほら、早く。
( 囁きかけるように静かにそう言う表情は人形のように無表情なのにも関わらず、どこか恍惚としていて。白い頬はほんのりと上気し、期待と羨望と狂気をはらんで濡れそぼった淡いグレーの瞳でじっと相手を見つめ。彼の方へと一歩踏み出せば、ぴちゃ、と足元の赤い海に波紋が広がって。)
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