- ベイビー、ベイビー。 -

ありがとうございます……！それと一つご報告なのですが、最近引っ越しをしたしまして少しバタバタしているので、落ち着くまで返信は土日のみとなってしまうかと思われます。今まででさえ亀にも劣るペースだったのに申し訳ありません……。
煙草は吸ったことがありません。従兄弟への恋をこじらせていたので男性関係は褒められたものではありませんが、一応スポーツマンかつロースクールへ通う好青年だったので。むしろそういうのを毛嫌いしていた方かもです。愛煙家のダーリンにハマってから嫌い！が好きじゃないくらいになった感じ。
モデルとしての仕事をあらかた片付けた(もしくはすでに引退した)竜児君に対して有人はどんどん忙しくなるので、誕生日に仕事が入って……とかはいいかもしれませんね！焦って家に帰ったら竜児君がいなくて、バーやら居酒屋を探し回って見つけたすっかり潰れている竜児君を車で連れ帰って謝り倒しながら愛したいです。会えなくて辛かったのは有人も同じで、でも仕事中だからお酒に逃げることもできなかったと思うので。
後半に出てくる男性(有人が賞を取った写真の被写体)ですが、代々続く扇骨店の息子で扇子職人さんです。その名の通り扇子の骨の部分を作っていまして、有人の近所の日本家屋に住んでいます。男手一つで5歳のえみりちゃんを育てていますが、奥さんがいない理由はわかりません。有人に現像部屋として部屋を一つ貸している代わりに、仕事で忙しい時期は有人にえみりちゃんを預けています。身長は竜児君と同じかそれよりちょっと大きいくらいで、茶髪に糸目のおっとりした人物です。彼が作業している姿を写真に収め、受賞しました。有人はこれら全部竜児君に隠せるものなら本当は説明しないでおきたいとか思っています。


トップモデルを恋人に持つと大変だ。俺ってよく君を捕まえられたよね。
(横たわる男の薄く開いた眼がたまらなくセクシーで喉が鳴る。高くつくよ、なんて笑った彼に軽口を返して身体を起こした。軋むベッドの上で窮屈そうに胡坐をかいて、寝そべったままジーンズを手繰り寄せる恋人に視線を落とす。囁くような問いかけに微笑むと、煙を吐き出すのと一緒に上下するなまっちろい胸の真ん中に体を屈めてキスを落とした。「……ウェディングドレスが着たいっていうなら俺もやぶさかではないよ」カメラを持った手、その薬指を撫ぜる竜児の気持ちが分からないわけはない。冗談みたいな台詞をやけに真剣な声色で言ってしまって、誤魔化すように頭を搔いてはかろうじて下半身を覆っていたシーツを剥いで床に捨てた。紫煙越しの細い肢体を舐るように眺めて俺は、心の中で「うつくしい」という手垢のこびりついた形容詞を張り付けてまたカメラを構える。が、惜しみなく晒された彼のヘアどころかソレを写そうとしてふと、思い出したようにカメラを下ろした。再生ボタンをいじくりまわして液晶画面に映し出されたのは一枚の写真。竜児ではない男が写っていた。「……竜児は、見てくれた？賞取った写真」嚙み締めるみたいにそう尋ね、三角座りをすると立てた膝の上にカメラを置き落っこちてしまわないよう両手で支える。本当のところ、何も解決してないって思っているのは俺だけじゃないはずだから。
被写体の名は西村弓。俺と同い年の日本人で、アメリカ人女性との間に生まれた女の子を一人で育てている。バイト先の保育園で知り合って、彼の家の一室を現像部屋としてタダで借りるまで親しくなった。竜児以外の人物をフォーカスして撮ったのは久しぶりのことで、現像を終えた後の壮絶な虚脱感をよく覚えている。自分にとっての現像は、セーフライトの下でその確認をするだけの時間だった。液に長く浸けていたら真っ黒に、薄くても斑が出てしまう。停止液につけなおすタイミングで写真は容易く色を変えるのだ。閉じ込めたものを隙間から見るような密度があって、斑に惑わされては浮き上がる染みを馬鹿みたいに見続けていた。まだモノクロの写真をトレイからピンセットで引き上げて、部屋中に張り巡らされた糸へと洗濯ばさみで吊るしてく。常に胸を満たしていた閉塞感に、あの時ばかりは気が狂いそうだった。脱却したいとも思っていなかった怠惰な芸術。靄がかかった赤い光が俺の世界で、誰に見せたいなんて愚かなことを、考えたことは一度もなかった。その信念を、俺は竜児で曲げたのだ。)