言葉を選んでいる茅人に、汐は機嫌を悪くする事もなく苦笑を浮かべる。 「誰に聞いたのかは分からないけど、確かに好きな事が出来ないのは辛いわ」 指先を本から離し、琥珀色の液体が入ったグラスに触れる。 液体は残り少なく、グラスの二割程しかない。 「でも、一番辛いのは『書けない私の存在』が怖いという事よ」 その言葉を発した汐は、茅人よりも年上なはずなのに、森で迷子になった少女のように見えた。