風人 2016-11-02 05:15:58 |
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美智はベッドに横たわっていたが、俺の顔を見るとごそごそ上半身を起こした。
「ああ、そのままで構いませんよ」
「ワシをナメたらあかん」
美智は不敵に笑い、ごほごほと咳き込んだ。
碧翠院桜宮病院では、乳癌な末期癌のホスピス患者だった。癌が全身転移しているにもかかわらず美智は、飄々と生き続けている。治療しなくてもここまで生きられるのだ、という現代治療へのアンチテーゼを、東城医大の医療従事者たちに突きつけているかのように。
美智のケアをしている看護師の顔には時々、やるせない疲労の色が浮かぶ。それは、自分たちの治療が、本当はあまり効果がないものかもしれない、と感じるがゆえの徒労感かもしれない。
ケルベロスの肖像/田口公平、高原美智/海堂尊
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