月 2016-09-03 18:33:52 |
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静まり返った薄暗い廊下は、銀色の歩く気配しかない。
家鳴りもしない廊下は、足音をさせないし、頼りになるのは月明かりだけだった。
いや、廊下の奥の方、夕飯時に聞いた織の部屋から、僅かに明かりが漏れている。
織がまだ起きているのだろうか。
もし起きているならお茶に誘ってみようと、銀色は廊下を曲がらず、織の部屋へと歩みを進める。
「…っ…で…糸は…ゃないのかよ!」
争いのような声は織のものだろうか。
糸の名が出たなら、二人はともに部屋にいるのかもしれない。
部屋の前に立つとより明確に二人の声が聞こえた。
「やっと、主様が見つかったんだぞ!?それなのに、糸は帰ってきてほしくないのかよ!」
障子の向こうで、織は糸に掴みかかっていた。
「俺は、主様がこの屋敷に戻ってくれることより、主様の幸せを優先してほしい」
糸の声は、悲痛に響く。
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