空が灰色だから

「二度と起こさないで」

今日は寝坊した。ただでさえ遅いのに電車までが遅れていると、アナウンスが言い訳していた。乗り込むと直ぐに電車が動き出した。イスは、、、空いてないか。

何気無く腕時計の日付を見ると忘れてた。明日、4月26日は妻の誕生日だ。
毎年、忘れて大目玉を喰らってるが、今年は気付いてラッキーだ。明日の帰りにでも何か買うか。何を渡そう？
そういえば、ここに越して来た時、役所の玄関に飾ってあった花を、妻が気に入ってたな。確か「キョウチクトウ」って花だ。コイツを渡すか。
待てよ、その花には毒が有るって聞いた気がする。危ない、危ない。花屋に聞いてみるのが一番か。しかし、やけにスピード出してるな。

そんな事を考えながら、ふと下を見ると、足元にゴミが落ちていた。固く口を縛られた、小さめのビニール袋で、中には何か入っている感じだ。このゴミに誰も見向きもしていない。
どうする？拾って捨ててやろうか？、、、いや、止めておこう。
余計な事はせずに、静かに暮らすのが一番だ。万が一、誰かの忘れ物だったら、色々と面倒になりそうだしな。
改めてそのゴミを見て、ふと何年か前に宗教団体が起こした、駅構内での無差別殺人事件を思い出した。あの事件も確か、ビニール袋に毒性の液体が入ってたんだよな、、、。まさかね、只のゴミだよな。
こんな心配して馬鹿みたいだ。放っておこう、、、しかし、気になる。念の為、この車両から離れておくか。本当に馬鹿みたいだが。
ところで、あの無差別殺人事件、何年前だっけ？確か、、、えっ！？あれから10年も経つのか！そりゃ、歳もとるな。

先頭車両まで移動してきた。なんだ、こっちの方が空いてるじゃないか。ラッキー、あと二駅の間、座っていられるぞ。
俺が座ってしばらくすると、目の前に座っていた爺さんが突然、咳き込みだした。苦しそうだ。
どうする？声をかけてやろうか？、、、いや、止めておこう。
余計な事はせずに、静かに暮らすのが一番だ。爺さんには可哀想だが、他の誰かが気付いてくれるだろう。
案の定、近くにいた女子高生が爺さんに声をかけ、次の駅で手を貸しながら、一緒に降りて行った。良い事をしたな、女子高生よ。後は頼んだぞ。
電車が動き出した。さて、あと一駅だ。電車がカーブに差し掛かる。








良い事はしておくべきだ。もう遅いか。