都々 2016-06-18 21:21:15 |
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どうしたの?
( 足下に擦り寄ってきた狐たちの様子がおかしい。見知らぬものへの怯えと興味、2つの感情が混ざり合いどうすべきか分からないと言いたげな戸惑いに満ちたその表情は、彼らが少女と初めて出会った時に似ていた。少女はその場にしゃがみ込み、狐たちを落ち着かせようと背や頭を順に撫でる。__この子たちと出会ったのは何年前のことだったか。正確な年数は分からないが、狐たちは私がこの森に来てから随分長い間側に居続けてくれている。懐くまでは1つ1つの動作をする度、一斉に視線を寄越されたものだ。出会った頃のことをしみじみと思い出しながら首を傾げると狐たちは顔を見合わせた後、皆同じ方向へと視線を向ける。恐らく其方に何かがあるということを知らせに来たのだろう。ゆっくりと足を踏み出せば道案内をするかのように狐たちが前を歩く。それに従って歩き続けること数分、春になると見事な花を咲かせる桜の木の下に、その人は居た。人、と表現すべきではないのかもしれない。人間が着る衣服を身に付けてはいるものの、木に身体を預けて眠っている姿はどこからどう見ても大きな狼だった。少女にとっても狐にとっても狼は危険な存在。けれど、何故だかその狼から遠ざかろうとは思えなかった。それは狐たちも同じらしく、怪我を負っているのであろう血の滲んだ右肩と腹を赤い舌で控えめに舐めている。流石にこの大きな身体を住処まで運ぶのは難しい‥となれば、ここで治療するしかない。薬草と水と綺麗な布、それから何が必要だろう。土や木の根に足を取られ転びそうになりながら、必死に考えを巡らせ急いで来た道を引き返す。秋の訪れを知らせる風が少女の頬をそっと撫でていった。 )
▼ それは優しい罰
和風 / 森の中 / 鼓動をなくした少女と記憶をなくした化け物
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