都々 2016-06-18 21:21:15 |
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道なき道をひた走る。暗い夜道を照らすは空に浮かぶ月の光のみ。森の中は不気味な闇で満ちており、地面も舗装されていない為に全力疾走は難しい。それでも足を止めたら最後、こうしている間にもすぐ後ろまで奴等が迫っているかもしれない。呼吸はとうの昔に乱れ、足は今にも縺れそうな程疲労感を訴えていた。踏みつけた木の枝がパキリと小さく音を鳴らす。それにさえ恐怖を感じてしまい、心拍数は異常な迄に上がっていく。
──どうしてこんなことに。漸く貰えた仕事だった。これまでの努力が実り、役者としてのスタート地点に立てたと思えたのに。それが蓋を開けてみればこれだ。己が見たあれは演出でもドッキリの類でもない。休憩中共に良い作品を作ろうと己の肩を叩いた彼の腕が足元に飛んで来た時、それが意図的に用意された物ではないと頭が警告音を鳴らした。逃げ惑っている内に、気付けば生き残っていた仲間とも逸れてしまっている。彼らとて生き延びている保証はない。既に何処を走っているか検討も付かないが、山を越えた先には確か少数の人々が暮らす高齢化の進んだ村があったと記憶している。そこに辿り着きさえすれば助けを求められるはずだ。
振り払えない恐怖をどうにか抑え込み走り続けていたその時、木々が途切れ田畑が広がる風景が前方に見えた。僅かではあるがぽつりぽつりと建てられた街頭の灯りも確認出来る。数十分、もしかすると数時間。スマホは何処かに落としたらしく、腕時計も転んだ衝撃で壊れてしまった。深夜であることは間違いないが、正確な時間を知る術は持ち合わせていない。服は木々に引っ掛け所々破けており、頬や腕にも同様に引っ掻かれた様な傷ができている。身体的にも精神的にも疲労は限界を超え、今にも座り込んでしまいたかったが、最後の力を振り絞って一番近い位置の民家へと向かった。
インターホンを鳴らし、扉を叩いても応答がない。時間が時間だ。眠っている可能性もあったが、何処か違和感を感じる。そっと横開きの扉に手を掛けると、それは簡単に開いた。酷く不用心だと感じたが、田舎ならこれが普通の事なのかもしれない。
「 すみません、誰か居ませんか!助けてくださ‥ 」
中に向かって声を張り上げながら一歩、足を進める。ぐちゃり。嫌な音が足の下から聞こえ、そちらに視線を遣った。月に薄く被さっていた雲が風に流され、開けた扉から光が射し込む。広がっていたのは赤だった。玄関から奥の部屋に続く廊下にかけて無残な形となって散らばったそれが何か、理解は出来なかったが想像するのは容易かった。喉の奥からひゅっと音が鳴る。見ていて気持ちの良い光景ではないにも関わらず、目を逸らせないばかりか瞬きすらも満足に出来ない。傍らに置かれた靴入れの上には孫と共に笑う老夫婦の写真が飾られている。廊下の奥側、辛うじてエプロンだと判断出来る赤く染まった布は、そこに写る女性が身に着けている物と良く似ていた。
▼ 世界が狂った日
人狼ゲームを演じていたはずの役者その1 / 本当のゲームの始まり
( お題は「 一日一つお題きめったー 」様よりお借りしました。 )
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