都々 2016-06-18 21:21:15 |
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( 暗い室内に蝋燭の灯りがぼんやりと揺らめき、それを背にして佇む少女の影を作る。静かに目の前の光景を眺め続けるその少女はまだ10代前半程の年齢だろうか、可愛らしいエプロンドレスの上に羽織る真っ赤なケープが目を引いた。被ったフードから覗く澄んだ青色の瞳が捉えているのもまた、赤。肌触りの良い絨毯も、美しい装飾が施されたソファーも、全てが赤に染まっていた。ソファーの上で呼吸を止めた中年の男と、その男に向かって銀色に輝く刃物を愉快そうに振り下ろし続ける彼も同様である。返り血を浴びない程度に離れた位置からその様子を見つめる少女は溜息を一つ落とした。彼とは長い付き合いになるが、死体を跡形もなく切り刻むことにこれ以上ない幸せを感じているその思考にだけは、今までもこれからも共感できそうにない。命を奪うよう指示を出した己でさえも、悲鳴を上げることさえできなくなったその男に同情してしまう程である。不意に奥の窓へと視線を滑らせれば丁度満月が街の真上まで昇りきっていた。ケープの内ポケットから懐中時計を取り出し時刻を確認する。長針と短針が12の上で重なりかけているのを確認すると、用意していたハンカチと1枚のカードを取り出し机の方へと足を向けた。男が普段から使用していたのだと予想されるその机の上はきっちりと片付けられており、彼の几帳面さが窺える。右手全体をハンカチで覆いカードに指紋が残らないよう細心の注意を払ったが、まさかこの凄惨な現場を作り出した犯人の手綱を握っているのがこんな子どもだとは誰も思わないだろう。茨のような模様に縁取られたカードの中央に描かれているのは真っ赤な薔薇。『始末屋』の仕業であることを示すそれを机に置き、踵を返しながら未だ飽きる様子もなく肉を抉っている彼に声を掛けて )
狼、そろそろ行こう。今夜はまだ仕事が残ってる。
▼ 赤に染まる
赤ずきんと狼 / 闇に生きる童話の彼ら
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