神技(シンギ) 2015-12-06 05:44:43 ID:e387a492e |
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草木も眠る丑三つ時。
その日もまた異には遭遇しなかった。というか狙って会えるようなもんでもない。どちらかというとアレは虹の様なものだ、特定の条件下でよほど運がないと出会えない。
それほど人生経験があるわけではないが、ある程度の場数を踏んでいる俺が言うんだ。間違いない。
「(やれやれ、今日の勝負は大負けだ。…というかここのところ毎回じゃないか?)」
異には出会えないし、ギャンブルには負けるしで大損した気分だ。(事実、しているのたが)
こんな調子で人生を棒に振り続けるのは不毛過ぎる。損得勘定抜きにしても明らかに空費だ。
延々と繰り返される自己嫌悪、逃避行。
今日も今日とて帰り足を引きずる。
いやに生活音が頭に響く。正直、堪ったものではない。
騒々しい住宅街を離れると侘しくも閑散とした路につく。
点滅する街灯。ひび割れた路面。人の気を感じない民家群。
街灯に照らされれば幾分、気分もすぐれると思ったがそんなことは無いらしい。
「(あぁ、馬鹿みたいに眩しい満月だ。)」
気が落ちると碌でもないことまで考えてしまう。
街灯という僅かな光源のせいか普段より月明かりが眩しい。…眩しいだけじゃない、なんというか幽玄だ。
「本当に…どうしたんだろうな。」
「そりゃあツキのせいだろうね。」
眼前より発せられた声。
頭上の白光球に気を取られていたせいか、目と鼻の先にいた存在に気付かなかった。
いや、『気付かなかった』というか『気付けなかった』。
雲か霞みか。
突然、目の前に現れた中年男性。
面倒は御免だ。ここは当たり障りの無いことを言って立ち去るのが得策だろう。
「考え事をしていたもので。すみません。」
「考え事?あぁ、月の事かい。確かに見事なもんだねぇ、今日は一段と幽玄だ。ここのところ運びがいいから何かあると思ったら―そういうことかい。」
男が語りだしたので先に説明しておくと俺のような所謂、グレーゾーンに位置する人間にとってこういう掴み所というか感触の無い人間が最も危険なのだ。
流暢に話していく内に主導権を握られ、挙げ句ツキを逃していく。
百害あって一利無し。
商売敵といっても差し支え無いほどにだ。
もともと勝負運が強くない俺からしてみれば迷惑を通り越して害悪のような存在にあたる。
「そこのお兄さんもしかしてやっぱり、だったりするのかい?」
こちらの意図を無視して更に続ける中年男性。
相手にするな。こちらも無視だ。
早足で歩き出す俺。
「無視とは酷いなぁ。僕だって君を助けてあげたいだけなんだ。裏なんて無いさ。」
助ける?何からだ。
大体、何事も助ける助けないではなく結果的に運が良かっただけだろう。
何か物事で助かった奴はそのときに持っていた運が大きかっただけの話だ。そのとき持っていた運で全てが左右される、感情や倫理観が入り込む余地なんてこの世には無いんだよ。
「最近、運がツいてないんだろ?僕だってそういうことはあるさ。でも君の場合、少し事情が違うんだ。」
はっ。ツイない時はツイてないもんだ。
そこに理由もへったくれもあるか。
世の中には屁理屈抜きで運が賭事に向いている奴もいるんだ。連絡先すら知らない少女とかな。
それに俺は、
「こればかりは時間がたったってどうしようもないんだよ。第三者が関わってるからね。」
「は?」
思わず歩みを止める。
誰かが関わってる?
「やっと、止まってくれたかい。いくら趣味が散策だといっても40過ぎのおじさんにこのペースは厳しいものがあるよ。それにもともと僕は肉体労働派じゃないんだ。もっと…」
「どういうことです?運とかツキとか。誰かが俺に関わってる?」
「あぁ、ごめんごめん。そうだったね。説明、よりも先に僕の紹介をしてもいいかな?」
男は息を整えると履き汚したジーパンのズボンに手を突っ込み前を見据える。
「…。」
無言を肯定と捉え、話を続ける。
「僕の名前は晴原トーヤ。荒事解決や不幸を取り除くことを生業としている。まぁ、君のことは度々町で見かけていたから気には掛けていたんだ。どうにも運が悪いみたいだね。」
いつ頃から留意されていたんだろうか。
正直な話、黒い部分にも身を置いている者としてはこのような事態は芳しくない。今後にも支障が出かねない。
だが、
「あなたは何か、というか第三者が関わってるといいましたよね?」
このような事態に未知の人物が更に関わってるとなると話が変わってくる。
この男については後回しだ。
「そうだね。確実に関わってる。だからこそ僕もこの件については依頼、という形を取らして貰いたい。」
「依頼…。報酬額というか印鑑等は今持ち合わせて無いんですが。」
この手の商法のやり口はある程度は知っている。
だからこそ、ここは慎重に慎重を期して。
「いや、僕はお金とかそういうのには興味無いんだ。報酬は君の体験談。それでいこう。」
金を取らない?
ギャンブルでもなんでもそうだが、後の先というのがある。
解決、若しくはゲーム終了時まで条件を提示せず、自分が勝って初めて無理難題を押し付けるという方法だ。しかしこの方法には書類等の必要事項を有する場合が多い。
だがどうだ。見たところこの男は書類どころか鞄すら持っていない。
「心配しなくてもいいよ。本当にお金は要らない。持っててもかさばるだけだしね。」
「…報酬の体験談というのは?」
「そのままの通りさ。君の生きてきた内の体験談、それを聞かしてくれればいい。他には何も要らない。」
言質をとられている感じも無い。
とりあえずはこのまま条件を呑むか。安価だが今はこの方法が最も優良だ。
「分かりました。本当に金銭が発生しないようでしたらこのまま続けましょう。」
「OK。じゃあ、契約成立だ。話を進めよう。」
トーヤと名乗った男は仰々しくも天を仰ぐと腕をピンと上げ、人差し指を立てる。
「まず、始めに君は運のツキに見放された訳ではなく。運の月が取り憑いたんだ。」
ウチのおじさんと他の人のキャラとの群像劇第一弾はてんてんさんの秀人さんです。
勝手に進めちゃってるんですが大丈夫ですかね?(既に上げてしまっていますが…)
キャラクターも妄想での産物なので、てんてんさんとの妄想にギャップがあるかも知れません。
一応、第一弾終わり次第、おじさんを他の人のキャラクターとも関わらせていきたいですね。
(リクやイメージ像、注意点、このキャラは使わないで!といったことは先に言っていただけると幸いです。)
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