灰神楽カルタ 2015-06-11 19:17:31 |
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俺の質問には答えず、誰もいないトイレに入る。用を足すぐらい一人でしろよ、などという俺の考えは甘かった。
やっと降ろされると思っていたのに一向に離される気配はない。
「おい、もういいだろ。」
勝手に降りようとする俺の体を更に腕に力を込め制する。まだ何かあるのか、と二回目のため息。仕方なく大人しくしていると一番奥にある個室のドアを開けた。
ここに来てようやく意味を悟った俺は顔を青ざめちらっと相手を見上げた。
「まさかとは思うが、俺ヤられる?」
冗談だと笑い飛ばしてくれることを願いながら聞いてみたのだが、生憎返ってきたのは別の笑みだった。
「そのまさかだけど?」
雑誌に載ってても何ら不思議ではない笑顔(恐らく営業スマイルだが)を浮かべさらっと言う相手に、さすがに恐怖を覚える。
初対面でしかも男、何故こいつが俺にこだわるのか。重要なことを喋ろうとしないのでいまだ真意がわからないのだが、とりあえずわかるのは身の危険が迫っているということだけだ。
逃げたいのは山々だが見た目以上に力が強く抜け出せそうにもない。何か話をして相手の意識を背けようと、そこまで考えるとガチャンッという金属音が俺の思考を遮った。
「もういいよね。返事がないってことはokってことでしょ?」
どうやらいつの間にか個室に入ってしまったみたいだ。こうなったら降ろされた瞬間に力ずくで逃げるしかない。
俺を余所になにやら話しているが構っている余裕はなく、タイミングを見計らっていたのだが……
「何で無視するのかな。」
ふいに聞こえた相手の声のトーンが下がったような気がした。
ふわっと一瞬浮いた体がトイレの蓋の上に降ろされても俺は動くことができずにいた。目はずっと相手に止まったままで。
穏やかだったはずの顔は一転し寒気がするほどに冷たく、目はそれこそ獲物を狙っているように鋭い。
だが、俺は怯えたのではなくその逆。
かっこいい、などと思ってしまった。
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