土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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いきなり美智はがばりと、元気よく上半身を起こす。
「田口先生がワシに聞きたいこと?よかろうもん、何でも答えちゃる」
「何で急にそんな元気になるんです?」
「すみれのヤツが言ったことだで。人は病人でも、誰かの役に立てるなら、死ぬ間際まで働かなくちゃダメなんだろうもん」
その言葉に胸が熱くなる。
すみれの言葉ば、いのちの火が消えかけている患者の口から蘇り、俺に手渡される。
すみれが生きている可能性は低い。
だが、すみれは美智の中で、今も生きている。
碧翠院桜宮病院。死を司る病院だと言われてうたその病院で、すみれは末期患者を集めて企業を作り、自立させようという独自の試みをしていた。俺は、そのトライアルを遠くから興味深く眺めていた。
海堂尊『ケルベロスの肖像』9章 碧翠院に忘れ形見 本文 田口公平 高原美智 桜宮すみれ(『螺鈿迷宮』) より
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