土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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斑鳩室長は目を細めた。その無機質な視線に、背筋に悪寒が走る。
だがそれは一瞬だった。斑鳩室長は静かに答えた。
「ケルベロスは三つの首を持つ地獄の番犬です。Aiは地獄の入り口で受ける検査なので生息地域は同じ。三つの顔を持っているという点も共通しているからでしょう」
Aiが三つの顔を持っている?どういうことですか?」
俺の問いに、斑鳩室長はうなずく。
「Aiは医療の最終検査であると同時に、犯罪捜査の端初にもなる。そして遺族にとっては救いの光です。このように司法、医療、そして遺族感情の三方向に顔を向けているので三つ首だ、と申し上げたわけです」
高階病院長がうっすらと笑って言う。
「霞が関にも詩的センスを持ち合わせている方がいらっしゃるんですねえ。でもあまり好意的な表現には思えませんが」
「まあ、文学的表現というものは往々にして底意地が悪いものかと」
斑鳩室長の言葉を聞いて、高階病院長が目を細めて笑う。
白鳥と俺は、まじまじと斑鳩室長を見た。その発言とは裏腹なことが現実に行われたのが、先般のアリアドネ・インシデントだったからだ。
海堂尊『ケルベロスの肖像』14章 呉越同舟会議 本文 田口公平 白鳥圭輔 高階権太 斑鳩芳正 より
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